百日咳

百日咳とは

百日咳は、百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。この細菌は気道に付着して毒素を産生し、特徴的な激しい咳を引き起こします。百日咳菌は非常に感染力が強く、免疫のない人が感染者と接触すると高い確率で感染します。

かつては小児の病気として知られていましたが、近年では成人の患者が増加傾向にあります。これは時間の経過とともにワクチンの効果が減弱することや、診断技術の向上により見逃されていた成人の百日咳が発見されるようになったことが背景にあります。

感染経路は主に飛沫感染で、感染者の咳やくしゃみによって放出される細菌を吸い込むことで感染します。潜伏期間は通常7~10日程度ですが、長い場合は3週間に及ぶこともあります。感染力が最も強いのは発症初期の風邪様症状が現れる時期で、この時期は百日咳と診断されにくいため、知らないうちに感染を広げてしまうリスクがあります。

百日咳の症状と経過

百日咳は病期によって症状が大きく変化するのが特徴です。全体の経過は通常6~10週間に及び、大きく3つの段階に分けられます。

カタル期(初期:1~2週間)

発症初期は普通の風邪と区別がつかない症状が現れます。微熱、鼻水、軽い咳、くしゃみなどが見られ、多くの方が風邪だと思って過ごします。この時期が最も感染力が強く、周囲への感染拡大が起こりやすい期間です。

徐々に咳の回数が増え、夜間に咳き込むことが多くなります。食欲不振や全身のだるさも伴いますが、日常生活に大きな支障をきたすほどではないため、医療機関を受診せずに過ごしてしまうことも少なくありません。

痙咳期(2~3週間)

百日咳の最も特徴的な症状が現れる時期です。短く激しい咳が連続して起こり、その後に「ヒューヒュー」という独特の吸気音(笛声)が聞こえます。この咳は痙攣性発作性咳嗽と呼ばれ、一度始まると止まらなくなることが特徴です。

咳の発作は日中よりも夜間に強くなる傾向があり、睡眠の妨げとなります。発作中は顔が真っ赤になったり青紫色になったりすることもあり、嘔吐を伴うことも珍しくありません。この激しい咳により、肋骨骨折や失禁が起こることもあります。

成人では典型的な笛声が聞かれないことも多く、長引く激しい咳として現れることがあります。そのため診断が遅れがちになり、感染拡大の要因となることもあります。

回復期(2~10週間)

咳の発作が徐々に軽くなり、回数も減少していきます。ただし、完全に咳がなくなるまでには数週間から数ヶ月を要することがあります。この時期でも感冒などの他の呼吸器感染症にかかると、再び激しい咳が出現することがあります。

体力の回復には時間がかかり、疲れやすさや軽い咳が長期間続くことも珍しくありません。日常生活への完全な復帰までには相当な期間を要する場合があります。

百日咳の合併症

百日咳は特に乳幼児で重篤な合併症を引き起こす可能性があります。最も危険なのは呼吸停止で、激しい咳により呼吸ができなくなることがあります。また、肺炎や脳症などの重篤な合併症も報告されています。

成人でも長期間続く激しい咳により、肋骨骨折、腹筋の損傷、失禁、不眠などの問題が生じることがあります。また、慢性的な咳により日常生活や仕事に大きな支障をきたすことも少なくありません。

診断と治療

百日咳の診断は症状の特徴と検査結果を総合して行います。

血液検査では百日咳菌に対する抗体価を測定し、感染の有無を確認します。PCR検査は感染初期の診断に有効で、鼻咽頭から採取した検体を用いて百日咳菌の遺伝子を検出します。ただし、発症から時間が経過している場合は検出が困難になることもあります。

治療は抗生物質が中心となります。マクロライド系抗生物質が第一選択薬として使用され、早期に治療を開始することで症状の軽減と感染期間の短縮が期待できます。ただし、痙咳期に入ってからの治療では症状の改善は限定的で、主に感染力を弱める目的で使用されます。

対症療法として咳止め薬を使用することもありますが、百日咳特有の激しい咳には一般的な咳止め薬の効果は限定的です。十分な水分摂取と栄養補給、安静が重要で、特に夜間の咳対策として加湿器の使用や枕を高くするなどの環境調整も効果的です。

予防法

百日咳の最も効果的な予防法はワクチン接種です。日本では、DPT-IPVワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ混合ワクチン)として乳幼児期に定期接種が行われています。しかし、ワクチンの効果は時間とともに減弱するため、成人でも感染する可能性があります。

日常的な予防対策としては、手洗い、うがい、マスクの着用が重要です。特に百日咳患者との接触を避け、咳エチケットを心がけることが感染拡大の防止につながります。

妊娠中の女性が百日咳ワクチンを接種することで、生まれてくる赤ちゃんに抗体を移行させることができます。これにより、ワクチン接種が開始される生後2ヶ月までの期間を守ることが可能です。

感染拡大防止

百日咳と診断された場合、適切な抗生物質治療を5日間継続するか、発症から3週間が経過するまでは他の人への感染リスクがあります。この期間は学校や職場への出席を控え、外出時は必ずマスクを着用します。

家族内感染を防ぐため、定期的な換気と手指消毒を心がけます。特に乳幼児や高齢者、妊婦がいる家庭では、より厳重な感染対策が必要です。

当クリニックでの診療

当クリニックでは、長引く咳でお困りの患者さんに対して百日咳の可能性も含めた総合的な診断を行っています。特徴的な咳の症状を詳しく聞き取り、必要に応じて各種検査を実施して正確な診断に努めています。

百日咳と診断された場合は、患者さんの年齢や症状の程度に応じた最適な治療を行います。抗生物質治療の効果的な使用法や、症状を和らげるための生活指導も丁寧に行い、患者さんの負担軽減に努めています。

また、感染拡大防止のための具体的な指導も行い、家族や職場での二次感染の予防についても詳しくご説明いたします。

2週間以上続く激しい咳がある方、咳の後に「ヒューヒュー」という音がする方、家族や職場で百日咳の診断を受けた方がいらっしゃる場合、風邪症状が長引いている方は、当クリニックにご相談ください。適切な診断と治療により、症状の改善と感染拡大の防止に努めています。

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