予防接種は、感染症から身を守るためのもっとも効果的な予防手段の一つです。ワクチンを接種することで、特定の病原体に対する免疫(抵抗力)を獲得し、その病気にかかりにくくなったり、かかっても症状が軽くなったりする効果が期待できます。
予防接種には「個人を守る」だけでなく、「社会全体を守る」という重要な役割もあります。多くの人が予防接種を受けることで「集団免疫」が形成され、ワクチンを接種できない人(乳幼児や特定の持病のある方など)も間接的に守られる公衆衛生上の大きなメリットがあるのです。
予防接種の仕組み – ワクチンはどのように働くのか
ワクチンは、病原体の一部や弱められた病原体、あるいは不活化(殺した)病原体などを含む製剤です。これを体内に接種することで、実際に病気にかかることなく免疫システムを活性化させ、その病原体に対する抗体を作らせます。
予防接種の効果は永久に続くものと、一定期間で追加接種(ブースター)が必要なものがあります。これは病原体の種類や特性、ワクチンの種類によって異なります。
定期接種と任意接種の違い
予防接種は大きく「定期接種」と「任意接種」に分けられます。
定期接種
予防接種法に基づいて市区町村が実施するもので、対象者は接種が努力義務となっています。
- 公費負担(原則無料)
- 予防接種健康被害救済制度の適用範囲が広い
- 接種時期や対象年齢が法律で定められている
任意接種
個人の希望により受ける予防接種です。
- 原則として自己負担(一部の自治体では助成制度あり)
- 健康被害救済制度は医薬品副作用被害救済制度が適用
- 接種時期に一定の推奨はあるが、比較的自由度が高い
当クリニックでは、定期接種、任意接種ともに取り扱っています。どちらが適しているかは、年齢や体調、生活環境などを考慮して医師がアドバイスいたします。
当クリニックで接種可能な主なワクチン
当クリニックでは、以下の予防接種を実施しています。
学童・思春期向け
- 日本脳炎ワクチン(2期)
- 二種混合(DT)ワクチン
- ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン
成人向け
- インフルエンザワクチン
- 新型コロナウイルスワクチン
- 肺炎球菌ワクチン
- 帯状疱疹ワクチン
- 破傷風トキソイド
- B型肝炎ワクチン
- 麻しん・風しん混合(MR)ワクチン(抗体価が低い方向け)
渡航者向け
- 狂犬病ワクチン
- A型肝炎ワクチン
- B型肝炎ワクチン
- 破傷風トキソイド
予防接種で防げる主な感染症
予防接種によって予防または症状の軽減が期待できる主な感染症についてご紹介します。
乳幼児期に多い感染症
- ヒブ感染症:髄膜炎や肺炎、敗血症などを引き起こす
- 肺炎球菌感染症:中耳炎、肺炎、髄膜炎などを引き起こす
- B型肝炎:肝炎、肝硬変、肝がんのリスクとなる
- ロタウイルス胃腸炎:嘔吐、下痢、発熱を主症状とする重度の胃腸炎
- 百日咳:長期間続く激しい咳発作
- ジフテリア:喉の痛み、発熱、呼吸困難などを引き起こす
- 破傷風:筋肉の痙攣を主症状とする重篤な疾患
- ポリオ(急性灰白髄炎):麻痺を引き起こす可能性がある
- 結核:肺を中心に全身に感染する
- 麻しん(はしか):高熱、発疹、肺炎や脳炎などの合併症の危険
- 風しん(三日はしか):発熱、発疹、妊婦が感染すると先天性風しん症候群のリスク
- 水痘(水ぼうそう):発熱と水疱性の発疹
- 日本脳炎:高熱、意識障害、けいれん、後遺症のリスク
- おたふくかぜ(流行性耳下腺炎):耳下腺の腫れ、無菌性髄膜炎などの合併症リスク
- 新型コロナウイルス
成人期の感染症
- インフルエンザ:高熱、全身倦怠感、肺炎などの合併症リスク
- 肺炎球菌感染症:高齢者では重症化リスクが高い
- 帯状疱疹:水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化による痛みを伴う発疹
- 成人の破傷風:外傷からの感染で筋肉の痙攣を引き起こす
- HPV感染症:子宮頸がんなどのリスク
- 新型コロナウイルス
予防接種を受ける前に知っておきたいこと

事前の準備
- 健康状態の確認:発熱や体調不良がある場合は接種を延期することがあります
- 予診票の記入:既往歴やアレルギー歴などを正確に記入してください
- 予約:当クリニックでは一部のワクチンは予約制となっています
予防接種の流れ
- 受付・予診票記入
- 医師による診察・説明
- 予防接種
- 接種後の経過観察(15〜30分程度)
- 次回接種日の確認(必要な場合)
接種後の注意点
- 接種部位の清潔保持:当日の入浴は可能ですが、接種部位はこすらないでください
- 激しい運動の制限:接種当日は激しい運動を避けましょう
- 体調観察:発熱、発疹、接種部位の腫れなど、気になる症状があれば医師に相談してください
- 生ワクチン接種後の他のワクチン接種:生ワクチン接種後は、次の予防接種まで27日以上の間隔が必要です
予防接種の費用と助成制度
予防接種の費用は定期接種か任意接種か、また自治体の助成制度によって異なります。
定期接種
予防接種法に基づく定期接種は、主に自治体の負担で実施されるため、対象者は原則として無料で接種を受けることができます。
任意接種
任意接種は原則として全額自己負担ですが、自治体によっては一部の任意接種に対して助成制度を設けている場合があります。
詳しい費用や助成制度については、お住まいの自治体の情報をご確認いただくか、当クリニックにお問い合わせください。
予防接種と公衆衛生 – 社会全体を守るために
予防接種は個人を感染症から守るだけでなく、社会全体の健康を守る「公衆衛生」の観点からも非常に重要です。
まとめ – 予防接種で守る健康と未来
予防接種は自分自身の健康を守るとともに、大切な人や社会全体を感染症から守るための重要な手段です。正しい知識を持ち、適切な時期に必要なワクチンを接種することで、多くの深刻な感染症を予防できます。
当クリニックでは患者さん一人ひとりの年齢、健康状態、生活環境に合わせた予防接種プランをご提案しています。予防接種に関するご質問やご不安な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
その他ワクチン
一般的な予防接種以外にも、特定の状況や地域への渡航、職業上の必要性、個人のリスクに応じて推奨される様々なワクチンがあります。これらの特殊なワクチンは、通常の予防接種スケジュールには含まれていませんが、適切に接種することで重篤な感染症から身を守ることができます。海外渡航者や特定の職業に従事する方、免疫力が低下している方などにとって、これらのワクチンは健康を維持するための重要な選択肢となります。当クリニックでは、患者さんの個別の状況に応じて、最適なワクチン接種プランをご提案し、安全で効果的な予防接種を提供しています。
海外渡航に必要なワクチン
海外への渡航では、日本では稀な感染症に曝露するリスクがあります。渡航先の感染症流行状況や滞在期間、活動内容に応じて、適切なワクチン接種を行うことが重要です。
黄熱ワクチン
黄熱は蚊によって媒介されるウイルス感染症で、アフリカや南米の熱帯地域で流行しています。重症化すると肝機能障害や出血傾向を来し、致死率が高い疾患です。一部の国では入国時に黄熱ワクチン接種証明書(イエローカード)の提示が義務付けられています。 黄熱ワクチンは生ワクチンで、接種後10日で免疫が獲得され、効果は生涯続くとされています。妊娠中の方や免疫不全の方は接種できない場合があるため、事前の相談が必要です。当クリニックでは渡航予定日の少なくとも2週間前までに接種を完了することをお勧めしています。
狂犬病ワクチン
狂犬病は犬や野生動物に咬まれることで感染するウイルス性疾患で、発症するとほぼ100%死亡する極めて重篤な感染症です。日本では根絶されていますが、アジア、アフリカ、中南米の多くの国では依然として発生しています。 狂犬病ワクチンには曝露前予防接種と曝露後治療があります。渡航前の予防接種では、4週間間隔で2回接種し、さらに6~12か月後に1回追加接種を行います。野生動物との接触機会が多い地域への長期滞在者や研究者などに特に推奨されます。
髄膜炎菌ワクチン
髄膜炎菌感染症は細菌性髄膜炎の原因となる重篤な感染症で、特にアフリカの髄膜炎ベルト地帯での流行が知られています。また、サウジアラビアへの巡礼者(ハッジ、ウムラ)には接種が義務付けられています。 髄膜炎菌ワクチンは4価ワクチン(A、C、Y、W-135型)が使用され、1回の接種で約5年間有効です。10代後半から20代前半の方や、集団生活を送る学生などにも推奨される場合があります。当クリニックでは渡航目的と滞在地域を詳しく伺い、接種の必要性を判断いたします。
職業関連ワクチン
特定の職業に従事する方は、職業上の曝露リスクに応じて追加のワクチン接種が推奨される場合があります。
医療従事者向けワクチン
医療従事者は患者さんとの接触により、様々な感染症に曝露するリスクがあります。一般的な予防接種に加えて、B型肝炎ワクチン、水痘ワクチン、麻疹・風疹ワクチンなどの抗体価確認と追加接種が重要です。 また、結核の感染リスクが高い環境で働く方には、結核菌に対する免疫状態の評価と適切な対策が必要です。インフルエンザワクチンは毎年の接種が強く推奨され、患者さんへの感染拡大防止の観点からも重要です。
動物関係従事者向けワクチン
獣医師、動物病院スタッフ、動物園職員、野生動物研究者などは、動物由来感染症のリスクが高いため、狂犬病ワクチンの予防接種が推奨されます。また、取り扱う動物の種類に応じて、他の特殊なワクチンが必要になる場合もあります。 実験動物を扱う研究者では、動物アレルギーの発症リスクもあるため、適切な予防策と健康管理が重要です。当クリニックでは職業の特性を詳しく伺い、個別のリスク評価に基づいた接種計画を提案いたします。
免疫不全者向けワクチン
免疫機能が低下している方は、一般的なワクチンでは十分な免疫が獲得できない場合や、生ワクチンの接種ができない場合があります。
がん患者さん向けワクチン
がん治療中の患者さんは、化学療法や放射線治療により免疫機能が低下するため、感染症のリスクが高くなります。治療開始前に必要なワクチンを接種することが重要で、特にインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンが推奨されます。 ただし、治療中は生ワクチンの接種は避ける必要があり、不活化ワクチンでも接種時期の調整が必要です。当クリニックでは主治医と連携を取りながら、安全で効果的な接種計画を立案いたします。
臓器移植後の患者さん向けワクチン
臓器移植を受けた患者さんは、免疫抑制薬の使用により感染症のリスクが高くなります。移植前に必要なワクチンを接種し、移植後は生ワクチンを避けながら、不活化ワクチンによる免疫維持を図ります。 特に移植後の肺炎球菌感染症は重篤化しやすいため、肺炎球菌ワクチンの接種が重要です。また、移植後も定期的な抗体価測定により、免疫状態を確認し、必要に応じて追加接種を行います。
高齢者向け特殊ワクチン
高齢者は免疫機能の低下により、感染症にかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。
高用量インフルエンザワクチン
65歳以上の高齢者向けに開発された高用量インフルエンザワクチンは、通常のワクチンの4倍の抗原量を含有しており、より強い免疫応答を期待できます。免疫機能が低下した高齢者でも、より確実な予防効果が得られる可能性があります。 ただし、副反応も通常のワクチンより強く現れる場合があるため、接種前の健康状態の評価が重要です。当クリニックでは患者さんの年齢、健康状態、既往歴を総合的に評価し、最適なワクチンを選択いたします。
帯状疱疹ワクチン(高齢者向け)
50歳以上の方に推奨される帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があります。不活化ワクチンは免疫不全の方でも接種可能で、より高い予防効果が期待できますが、2回接種が必要です。 帯状疱疹は高齢になるほど発症リスクが高まり、神経痛などの後遺症を残すことがあるため、予防接種による予防が重要です。患者さんの免疫状態や希望に応じて、最適なワクチンを選択いたします。
妊娠・授乳期のワクチン
妊娠中や授乳中の女性は、母子の健康を考慮した慎重なワクチン選択が必要です。
妊婦向けワクチン
妊娠中でも接種可能な不活化ワクチンには、破傷風・ジフテリア・百日咳混合ワクチン(Tdap)やインフルエンザワクチンがあります。特にTdapワクチンは、妊娠中に接種することで、出生後の赤ちゃんを百日咳から守る効果があります。 妊娠中は生ワクチンの接種は避ける必要があり、妊娠前に必要なワクチンを接種しておくことが重要です。風疹ワクチンなどは妊娠前の接種が推奨され、接種後は一定期間の避妊が必要です。
授乳中の母親向けワクチン
授乳中の女性は、ほとんどのワクチンを安全に接種できます。特に出産後に免疫が低下することがあるため、必要なワクチンの接種により、母親自身の健康を維持することが重要です。 授乳中のワクチン接種により、母乳を通じて赤ちゃんに抗体が移行することもあり、間接的に赤ちゃんを感染症から守る効果も期待できます。
ワクチン接種の個別相談
特殊なワクチンの接種には、個別の相談と評価が重要です。
リスク評価と接種計画
患者さんの年齢、健康状態、職業、渡航予定、家族歴などを総合的に評価し、必要なワクチンを特定します。複数のワクチンが必要な場合は、接種間隔や優先順位を考慮した計画を立案いたします。 また、過去の接種歴や抗体価測定結果に基づいて、追加接種の必要性を判断します。アレルギー歴や薬剤に対する過敏症がある方は、特に慎重な評価が必要です。
接種後のフォローアップ
特殊なワクチンの接種後は、副反応の監視と効果の確認が重要です。必要に応じて抗体価測定を行い、十分な免疫が獲得されているかを確認いたします。 また、ワクチンの効果持続期間に応じて、追加接種のタイミングをお知らせし、継続的な免疫維持をサポートいたします。海外渡航者には、現地での感染症対策についてもアドバイスを提供いたします。
当クリニックでのその他ワクチン接種
当クリニックでは、患者さんの多様なニーズに対応した特殊ワクチンの接種を行っています。
事前相談とカウンセリング
特殊なワクチン接種をご希望の方には、事前相談を実施しています。詳しい問診により、患者さんの状況を把握し、最適なワクチン選択と接種計画を提案いたします。費用や接種スケジュール、注意事項についても詳しく説明いたします。 海外渡航者には、渡航先の感染症情報や予防策についても最新の情報を提供し、安全な渡航をサポートいたします。また、必要に応じて他の専門医療機関との連携も図ります。
安全な接種環境の提供
当クリニックでは、ワクチンの適切な保管管理と安全な接種環境を整備しています。接種後の観察時間を十分に確保し、万が一の副反応に対しても迅速に対応できる体制を整えています。 また、接種記録の適切な管理により、将来の追加接種や海外渡航時の証明書発行にも対応いたします。患者さんが安心してワクチン接種を受けられるよう、丁寧なサポートを提供しています。
まとめ
その他ワクチンは、特殊な状況や個別のリスクに応じた重要な予防手段です。海外渡航、職業上の必要性、免疫状態の変化など、様々な要因を考慮した適切なワクチン選択により、重篤な感染症から身を守ることができます。 海外渡航を予定されている方、特殊な職業に従事されている方、免疫機能の低下が心配な方、その他特殊なワクチンについて相談したい方は、当クリニックにお気軽にご相談ください。特に以下の方には早めのご相談をお勧めしています。 海外出張や留学を予定されている方、医療従事者や動物関係の仕事に就かれる方、がん治療や免疫抑制療法を受けている方、高齢で感染症リスクが心配な方、妊娠を計画されている方、既存のワクチン以外の追加接種を検討されている方などです。 当クリニックでは、患者さん一人ひとりの状況に応じた最適なワクチン接種プランを提案し、安全で効果的な予防接種を提供いたします。特殊なワクチンについてご質問やご不明な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。