RSウイルスとは
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、呼吸器に感染するウイルスの一種です。このウイルスは非常に感染力が強く、ほぼ全ての人が2歳までに一度は感染するとされています。一度感染しても免疫は不完全で、生涯にわたって再感染を繰り返します。
RSウイルスは年間を通して存在しますが、日本では秋から冬にかけて流行のピークを迎えます。近年では流行時期が早まる傾向にあり、夏の終わりから患者数が増加することも珍しくありません。保育園や幼稚園などの集団生活の場では、一人の感染者から多くの子どもに感染が広がることがよくあります。
感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。感染者の咳やくしゃみによって放出されるウイルスを吸い込んだり、ウイルスが付着した手やおもちゃなどを介して口や鼻の粘膜に触れることで感染します。RSウイルスは環境中で数時間生存するため、間接的な接触感染のリスクも高くなります。潜伏期間は通常2~8日で、症状が現れる前から他の人への感染力を持っています。
RSウイルス感染症の症状
RSウイルス感染症の症状は年齢によって大きく異なります。大人や大きな子どもでは軽い風邪症状で済むことが多い一方、乳幼児、特に生後6ヶ月未満では重篤な症状を引き起こすことがあります。
乳幼児の症状
乳幼児では、初期症状として鼻水、軽い咳、微熱が現れます。その後、咳が徐々に強くなり、痰がからんだ湿った咳に変化することが特徴的です。発熱は38℃前後のことが多く、高熱になることは比較的少なくなります。
症状が進行すると、呼吸が浅く速くなったり、息を吸う時に胸がへこんだりする陥没呼吸が見られることがあります。哺乳力の低下も重要なサインで、ミルクや母乳を飲む量が明らかに減少したり、飲むのに時間がかかるようになります。
重症化すると、細気管支炎や肺炎を併発することがあります。呼吸困難、チアノーゼ(唇や爪が青紫色になる)、無呼吸発作などが現れた場合は、緊急を要する状態です。また、脱水症状にも注意が必要で、おしっこの回数が減る、涙が出ない、口の中が乾燥するといった症状が見られます。
年長児・成人の症状
年長児や成人では、軽い風邪症状として現れることが一般的です。鼻水、軽い咳、のどの痛み、軽度の発熱などが主な症状で、通常は1週間程度で改善します。多くの場合、日常生活に大きな支障をきたすことはありません。
ただし、高齢者や慢性呼吸器疾患、心疾患、免疫不全などの基礎疾患がある方では、症状が重篤化するリスクがあります。肺炎を併発したり、既存の疾患が悪化したりすることもあるため注意が必要です。
RSウイルス感染症の診断

RSウイルス感染症の診断は、症状の特徴と迅速診断検査を組み合わせて行います。
迅速診断キットを使用することで、鼻腔から採取した検体により約15分程度で結果を確認できます。この検査により、RSウイルス感染症であるかどうかを速やかに判定し、適切な治療方針を立てることができます。
診断においては、症状の経過や年齢、流行状況なども重要な判断材料となります。特に細気管支炎や肺炎の合併が疑われる場合は、胸部レントゲン検査や血液検査なども併せて実施し、総合的に病状を評価します。
RSウイルス感染症の治療
RSウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在しないため、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。しかし、患者さんの年齢や症状の程度に応じた適切な対症療法により、症状の軽減と合併症の予防を図ることができます。
軽症例の治療
軽症の場合は、十分な水分補給と安静が基本となります。発熱に対しては解熱剤を適切に使用し、患者さんの苦痛を軽減します。鼻づまりがある場合は、鼻吸引や生理食塩水での鼻洗浄が効果的です。
咳に対しては、痰の排出を促す去痰薬を使用することがあります。ただし、咳止め薬は痰の排出を妨げる可能性があるため、使用は慎重に判断します。室内の湿度を適切に保つことも、症状の緩和に役立ちます。
重症例の治療
呼吸困難や脱水症状などが見られる重症例では、入院治療が必要になることがあります。酸素投与、点滴による水分・栄養補給、呼吸理学療法などが行われます。
当クリニックでは、症状の重症度を慎重に評価し、必要に応じて高次医療機関への紹介も行います。特に乳幼児では症状の変化が急激に起こることがあるため、継続的な観察と適切な判断が重要です。
家庭での管理とケア
RSウイルス感染症の患者さんを家庭で看護する際は、いくつかの重要なポイントがあります。まず、十分な水分摂取を心がけ、特に乳幼児では哺乳量の変化に注意を払います。少量ずつ頻回に与えることで、嘔吐のリスクを減らすことができます。
呼吸を楽にするため、上体をやや起こした姿勢で休ませます。鼻づまりがひどい場合は、市販の鼻吸い器を使用したり、蒸しタオルで鼻の周りを温めたりすることが効果的です。
室内環境の調整も重要で、適度な湿度(50~60%)を保ち、定期的な換気を行います。タバコの煙などの刺激物は症状を悪化させるため、完全に避ける必要があります。
予防法と感染拡大防止
RSウイルス感染症の予防には、基本的な感染対策が最も重要です。手洗いを徹底し、特に外出後や食事前、おむつ交换後などは石鹸を使って丁寧に洗います。アルコール系消毒剤も併用すると効果的です。
おもちゃやドアノブ、テーブルなど、多くの人が触れる場所の定期的な消毒も大切です。RSウイルスは一般的な消毒剤で容易に不活化されるため、適切な消毒により感染リスクを大幅に減らすことができます。
感染者がいる場合は、可能な限り乳幼児との接触を避けます。やむを得ず接触する場合は、マスクの着用と手洗いを徹底します。兄弟間での感染を防ぐため、タオルや食器の共用も避けるべきです。
保育園や幼稚園では、症状が改善し熱が下がった後も数日間は登園を控えることが推奨されます。症状が軽くても他の子どもへの感染リスクがあるためです。
合併症と注意すべき症状
RSウイルス感染症の合併症として最も多いのは、細気管支炎と肺炎です。細気管支炎は、気管支の末端部分に炎症が起こる病気で、特に乳幼児に多く見られます。呼吸困難、喘鳴、陥没呼吸などの症状が現れます。
以下のような症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。呼吸が速い、息を吸う時に胸やお腹がへこむ、唇や爪が青紫色になる、哺乳量が普段の半分以下になる、ぐったりして反応が鈍い、熱性けいれんを起こすなどの症状です。
特に生後3ヶ月未満の乳児、早産児、慢性肺疾患や先天性心疾患などの基礎疾患がある子どもでは、重症化するリスクが高いため、より慎重な観察が必要です。