ロタウイルスとは
ロタウイルスは、感染性胃腸炎を引き起こす代表的なウイルスで、非常に感染力が強く、わずかな量でも感染が成立するため、家族内や集団生活の場で急速に感染が拡大します。
ロタウイルスは年間を通して存在しますが、日本では冬から春にかけて(11月~5月頃)流行のピークを迎えます。特に1~4月の寒い時期に患者数が最も多くなる傾向があります。ほぼ全ての子どもが5歳までに一度は感染するとされており、初回感染時に最も重篤な症状を示すことが知られています。大人はロタウイルスの感染を何度も経験しているため、症状が出ないことが多いです。
感染経路は主に糞口感染で、感染者の便に含まれるウイルスが何らかの経路で口に入ることで感染します。感染者のおむつ交換後の手洗いが不十分だったり、ウイルスが付着したおもちゃや手すりなどを触った手で口に触れることで感染が成立します。
ロタウイルス感染症の症状
2~4日程度の潜伏期間のあと、主な症状は、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状が現れます。
便の色は白っぽいクリーム色から薄い黄色で、これがロタウイルス感染症の特徴的なサインの一つです。発熱は38~39℃程度のことが多く、全身倦怠感や食欲不振を伴います。腹痛や腹部膨満感も見られ、特に小さな子どもでは機嫌が悪くなったり、泣き続けたりすることがあります。
症状は通常3~8日程度続きますが、下痢は1週間以上継続することもあります。嘔吐は比較的早期に改善することが多いものの、下痢の回復には時間がかかる傾向があります。
最も注意しなければならない症状は脱水症状です。特に乳児では体重に占める水分の割合が高いため、短時間で重篤な脱水状態に陥るリスクがあります。普段の半分以下しか水分が取れない、6時間以上おしっこが出ない、ぐったりして反応が鈍いといった症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
ロタウイルス感染症の診断
ロタウイルス感染症の診断は、症状の特徴と迅速診断検査を組み合わせて行います。当クリニックでは、特に冬から春にかけての時期に、乳幼児の急性胃腸炎症状については、ロタウイルス感染症の可能性を積極的に検討します。
迅速抗原キットを使用することで、便検体から約15分程度でロタウイルスの検出が可能です。この検査により、ロタウイルス感染症であるかどうかを速やかに判定し、適切な治療方針を立てることができます。
ロタウイルス感染症の治療

ロタウイルス感染症に対する特効薬は現在のところ存在しないため、治療は脱水の予防と症状を和らげる対症療法が中心となります。最も重要なのは適切な水分・電解質の補給で、これにより重篤な合併症を予防できます。
経口補水療法
軽度から中等度の脱水に対しては、経口補水療法が第一選択となります。経口補水液を少量ずつ頻回に与えることで、失われた水分と電解質を効率的に補給できます。一度に大量を与えると嘔吐を誘発するため、5~10分間隔で少しずつ飲ませることがポイントです。母乳やミルクは可能な限り継続し、離乳食は消化の良いものから徐々に再開します。
重症例の治療
重度の脱水や持続する嘔吐により経口摂取が困難な場合は、点滴による水分補給が必要になります。
家庭での看護と管理
ロタウイルス感染症の患者さんを家庭で看護する際は、脱水の予防が最も重要です。水分補給は少量頻回を基本とし、患者さんが飲みたがる時に無理をさせずに与えます。冷たすぎたり熱すぎたりすると嘔吐を誘発することがあるため、常温程度の温度が適しています。
食事については、嘔吐が落ち着いてから消化の良いものを少量ずつ開始します。おかゆ、うどん、バナナ、りんごのすりおろしなどから始め、脂肪分の多い食べ物や乳製品は避けるようにします。
おむつ交換の際は、感染拡大を防ぐため使い捨て手袋を着用し、交換後は石鹸でしっかりと手洗いを行います。使用したおむつは密閉して処理し、おむつ交換台やその周辺の消毒も忘れずに行います。
予防法と感染拡大防止
ロタウイルス感染症の最も効果的な予防法はワクチン接種です。現在、日本では経口投与型のロタウイルスワクチンが定期接種として実施されており、生後6週から接種を開始できます。このワクチンにより、重症化のリスクを大幅に減らすことができます。
日常的な予防対策としては、手洗いの徹底が最も重要です。石鹸を使った丁寧な手洗いを、食事前、トイレ後、おむつ交換後に必ず行います。アルコール系消毒剤はロタウイルスに対してやや効果が限定的なため、手洗いがより確実な予防方法となります。
感染者がいる家庭では、タオルや食器の共用を避け、トイレやおむつ交換場所の定期的な消毒を行います。次亜塩素酸ナトリウム系の消毒剤が効果的で、感染者が使用した衣類や寝具も適切に消毒洗濯します。
保育園や幼稚園では、症状が改善した後も数日間はウイルスの排出が続くため、医師の許可が出るまでは登園を控えることが重要です。
合併症と注意すべき症状
ロタウイルス感染症の最も重篤な合併症は重度脱水症です。適切な水分補給が行われないと、循環不全、腎機能障害、電解質異常などを引き起こし、生命に関わることもあります。
以下のような症状が見られた場合は、緊急に医療機関を受診する必要があります。6時間以上おしっこが出ない、皮膚をつまんでも元に戻らない、目がくぼんで見える、ぐったりして呼びかけに反応しない、けいれんを起こす、高熱が続くなどの症状です。
また、まれではありますが、ロタウイルス感染症に関連した脳症の報告もあります。意識レベルの低下、異常な言動、けいれんなどの神経症状が現れた場合は、速やかに専門医療機関での診察が必要です。
当クリニックでのロタウイルスの診療
当クリニックでは、ロタウイルス感染症の迅速診断から脱水の程度に応じた適切な治療まで、包括的な医療サービスを提供しています。特に乳幼児の急性胃腸炎については、脱水症状の評価を慎重に行い、重症化を防ぐための適切な対応を心がけています。
迅速診断検査により早期に診断を確定し、患者さんの年齢や症状の程度に応じた最適な治療を行います。軽症例では外来での経口補水療法を指導し、重度脱水の場合は点滴治療や高次医療機関への紹介を適切に判断します。
また、家庭での看護方法や水分補給のコツ、感染拡大防止の具体的な方法について詳しくご説明し、保護者の方が安心して看護できるようサポートいたします。症状の変化や注意すべきポイントについても丁寧にお伝えし、早期の対応につなげています。
お子さんに白っぽい下痢、激しい嘔吐、発熱などの症状が見られる場合、水分が取れない、おしっこの回数が減っている、ぐったりしているといった脱水の兆候がある場合は、ロタウイルス感染症の可能性があります。特に冬から春にかけての時期に胃腸炎症状がある方、家族でロタウイルス感染症の診断を受けた方がいらっしゃる場合は、お早めに当クリニックにご相談ください。迅速な診断と適切な治療により、重症化の予防と早期回復を支援いたします。