ノロウイルス

ノロウイルスとは

ノロウイルスは、感染性胃腸炎を引き起こす代表的なウイルスで、極めて強い感染力を持つことで知られています。わずか10~100個程度の少ないウイルス量でも感染が成立し、一度発生すると瞬く間に周囲に感染が拡大します。また、アルコール系消毒剤に対する抵抗性があるため、通常の手指消毒では完全に除去することが困難です。

ノロウイルスによる感染性腸炎は一年中発生しますが、主に冬季(11月~3月頃)に流行し、特に12月から1月にかけてピークを迎えます。低温で乾燥した環境を好むため、暖房により室内が乾燥しがちな冬場に感染が拡大しやすくなります。あらゆる年齢層で感染しますが、一度感染しても完全な免疫は獲得されないため、生涯にわたって再感染を繰り返します。

感染経路は多岐にわたります。最も多いのは感染者の便や嘔吐物からの直接感染で、処理が不適切な場合に手を介して口に入ることで感染します。また、感染者が調理した食品を摂取することによる食品媒介感染、汚染された二枚貝(カキなど)を生食または加熱不十分な状態で摂取することによる感染もあります。

ノロウイルス感染症の症状

潜伏期間は24~48時間程度で、主な症状は、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱です。

症状は通常1~3日程度で改善しますが、この短期間に非常に激しい症状が現れるため、患者さんの苦痛は相当なものです。

嘔吐のため水分摂取が困難になり、また、頻回の下痢によって多くの水分が体外に失われてしまうため、脱水症状のリスクが高まります。

高齢者や基礎疾患のある方では、症状が長引いたり重篤化したりするリスクがあります。また、免疫力の低下している方では、ウイルスの排出期間が延長し、周囲への感染リスクが持続することもあります。

ノロウイルス感染症の診断

嘔吐や下痢といった症状はノロウイルスによる感染性腸炎以外の病気でも見られる症状であり、症状だけでノロウイルスによるものかは判断ができません。ノロウイルス感染症の診断は、症状以外に、流行状況、周囲に同様の患者さんがいるか、二枚貝を食べたか、などの情報が診断の手がかりとなります。

検査方法としては、ノロウイルスの迅速抗原キットを実施します。便検体を用いた検査により、比較的短時間でノロウイルスの検出が可能です。

ノロウイルス感染症の治療

ノロウイルス感染症に対する特効薬は存在しないため、治療は症状を和らげる対症療法と脱水の予防が中心となります。最も重要なのは適切な水分・電解質の補給で、これにより重篤な合併症を予防できます。

水分補給と栄養管理

激しい嘔吐により水分摂取が困難になりがちですが、脱水を防ぐために少量ずつ頻回の水分補給を行います。経口補水液を5~10分間隔で少しずつ飲むことで、嘔吐を誘発せずに水分を補給できます。一度に大量を摂取すると嘔吐を引き起こすため、「ちびちび飲み」が基本です。

嘔吐が落ち着いてきたら、消化の良い食べ物から徐々に摂取を開始します。おかゆ、うどん、バナナ、りんごのすりおろしなどから始め、脂肪分の多い食べ物や乳製品、刺激の強い食べ物は避けるようにします。

症状に対する治療

激しい嘔吐に対しては、制吐薬を使用することがあります。下痢に対しては、ウイルスの排出を妨げる可能性があるため止痢薬(下痢止め)の使用は原則として控え、整腸剤の内服による自然な回復を待つことが多くなります。

発熱や全身の痛みに対しては、解熱鎮痛薬を適切に使用します。ただし、脱水状態では薬剤の排泄が遅延する可能性があるため、使用量や間隔に注意が必要です。

重症例への対応

重度の脱水や持続する嘔吐により経口摂取が不可能な場合は、点滴による水分補給が必要になります。

感染拡大防止対策

ノロウイルスは極めて感染力が強いため、感染拡大防止対策が非常に重要です。適切な対策により、家族内感染や集団感染を予防することができます。

手洗いと消毒

最も重要なのは徹底した手洗いです。石鹸と流水を使って30秒以上かけて丁寧に洗い、特に指の間、爪の周り、手首まで念入りに洗います。アルコール系消毒剤はノロウイルスに対して効果が限定的なため、手洗いがより確実な予防方法となります。

環境の消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)が効果的です。便や嘔吐物で汚染された場所は、適切な濃度に希釈した次亜塩素酸ナトリウムで消毒し、使用した雑巾やペーパータオルは密閉して廃棄します。

嘔吐物・排泄物の処理

嘔吐物や便の処理は感染拡大防止の重要なポイントです。処理を行う際は、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、ペーパータオルなどで静かに拭き取ります。処理後は手袋を外側に丸めて密閉し、手洗いを徹底します。

汚染された衣類や寝具は、85℃以上の熱湯で1分間以上の加熱処理を行うか、次亜塩素酸ナトリウムに浸漬してから洗濯します。乾燥機の使用も効果的です。

食品衛生管理

食品からの感染を防ぐため、特に二枚貝は中心部まで85℃以上で90秒間以上加熱してから摂取します。調理器具は使用後に熱湯消毒し、調理者は症状がある間は調理を控えます。

感染者は症状改善後も2~3週間はウイルスを排出するため、この期間は食品を扱う業務への従事を控えることが推奨されます。

予防法

ノロウイルス感染症の予防には、日常的な感染対策の徹底が最も重要です。手洗いの習慣化、食品の適切な加熱、調理器具の衛生管理などを心がけることで、感染リスクを大幅に減らすことができます。

特に冬季には感染リスクが高まるため、外出後、食事前、トイレ後の手洗いを必ず行い、室内の適切な湿度管理も重要です。また、体調不良時は無理をせず休養を取り、周囲への感染拡大を防ぐことも大切な予防対策です。

当クリニックでのノロウイルスの診療

当クリニックでは、ノロウイルス感染症の診断から症状に応じた治療まで、包括的な医療サービスを提供しています。感染力の極めて強い疾患であることを考慮し、他の患者さんへの感染拡大防止にも十分配慮した診療体制を整えています。

症状の詳しい聞き取りと診察により、ノロウイルス感染症の可能性を評価し、必要に応じて迅速診断検査を実施します。脱水の程度を慎重に判断し、軽症例では外来での対症療法を、重症例では点滴治療や高次医療機関への紹介を適切に行います。

また、感染拡大防止のための具体的な指導を詳しく行い、家庭や職場での二次感染予防について丁寧にご説明いたします。特に処理方法や消毒方法については、実践的なアドバイスを提供しています。

急激な嘔吐や下痢の症状がある方、冬季に胃腸炎症状が現れた方、家族や職場で同様の症状の方がいらっしゃる場合、二枚貝を摂取した後に体調不良となった方は、ノロウイルス感染症の可能性があります。お早めに当クリニックにご相談ください。適切な診断と治療により、症状の改善と感染拡大の防止に努めています。

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