麻疹(はしか)と風疹について「子どもの頃にかかる病気」というイメージを持つ方もおられるのではないでしょうか。しかし麻疹も風疹も大人もかかる病気であり、さらに大人になってからかかると重症化するリスクが高まるやっかいさを持ち合わせています。また、風疹は妊娠中の女性が感染すると、お腹の赤ちゃんに影響が出る可能性もあるのです。この記事では、麻疹と風疹の基本的な知識、症状、予防法、そして当クリニックでの対応について詳しく解説します。
麻疹(はしか)とは
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスが原因で起こる感染症です。空気感染、飛沫感染による疾患で、日常生活のあらゆる場面で感染するリスクがあり、感染力の強さが特徴です。
麻疹の感染経路と感染力
麻疹ウイルスは、以下のような経路で感染します。
空気感染
感染者が咳やくしゃみをすると、口から出た麻疹ウイルスは空気中に放出されます。感染者から放出されたウイルスを同じ空間にいる人が吸い込むことで感染します。
飛沫感染
感染者の咳やくしゃみなどの飛沫を直接吸い込むことで感染します。
麻疹の感染力は非常に強く、免疫を持たない人が感染者と同じ空間にいると、ほぼ100%の確率で感染するとも言われています。また感染者は発疹出現5日前(発熱2日前)から発疹出現後4日間まで他の人にうつす可能性があるため、注意が必要です。
麻疹の主な症状と経過
麻疹は以下のような経過をたどります。
潜伏期(感染後10〜12日)
この期間は無症状です。
前駆期(発症後2~4日)
- 38℃以上の高熱
- せき、鼻水、結膜充血、目やに
- 全身の倦怠感
- コプリック斑(頬の内側に現れる白い斑点)
発疹期(発症後4〜6日)
- 紅斑(赤い発疹)が耳の後ろや首から始まり、顔や体、手足へと広がる
- 40℃前後の高熱が続く
回復期(発症後7日以降)
- 発疹は徐々に消退し、色素沈着を残す
- 徐々に解熱していく
風疹とは
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。麻疹ほどの強い感染力ではないものの、飛沫感染によって広がります。特に妊娠初期の女性が感染すると、胎児に影響が出る可能性があることが大きな特徴です。
風疹の感染経路と感染力
風疹ウイルスは以下のような経路で感染します。
飛沫感染
感染者の咳やくしゃみなどの飛沫を吸い込むことで感染します。
感染者は発疹が出る1週間前から発疹が消えた1週間後まで、他の人にうつす可能性があります。
風疹の主な症状と経過
風疹は以下のような経過をたどります。
潜伏期(感染後2〜3週間)
この期間は無症状です。
前駆期(発症前1〜2日)
- 微熱や倦怠感
- のどの痛み、頭痛
- リンパ節(特に耳の後ろや首の後ろ)の腫れ
発疹期(発症後1〜3日)
- 淡い紅斑(ピンク色の発疹)が顔から始まり、体や手足へと広がる
- 発疹は通常2〜3日で消失する
- 軽度の発熱
成人の場合は症状が重くなる傾向があり、関節痛や関節炎を伴うことがあります。また、20〜30%の感染者は無症状のまま経過することもあります。
風疹の合併症と先天性風疹症候群
風疹の合併症としては以下のようなものがあります。
関節炎・関節痛
成人では膝、手、指の関節痛や関節炎を伴うことが多く、1か月以上続くこともあります。特に女性に多く見られます。
血小板減少性紫斑病
血小板が減少し、出血しやすくなる状態です。
脳炎
風疹にかかった方の約0.01%(1万人に1人)に発症します。
先天性風疹症候群
妊娠初期(特に妊娠12週以前)の女性が風疹に感染すると、胎児に以下のような障害が起こる可能性があります。
- 先天性心疾患
- 白内障などの眼の異常
- 難聴
- 発達遅延
これが先天性風疹症候群と呼ばれるものです。妊娠20週以降の感染では、胎児への影響はほとんどないとされています。
麻疹・風疹の治療

麻疹と風疹はウイルス感染症であり、特効薬はありません。基本的には対症療法が中心となります。
麻疹の治療
対症療法
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)による熱や痛みの緩和
- 十分な水分摂取
- 安静にして体力を温存する
- 目の症状(結膜炎)に対する点眼薬
合併症への対応
- 細菌による二次感染(肺炎など)が疑われる場合は抗生物質を使用
- 重症例では入院治療が必要になることも
風疹の治療
対症療法
- 解熱鎮痛薬による熱や関節痛の緩和
- 十分な水分摂取と栄養バランスの良い食事
- 安静にして体力を温存する
風疹は比較的軽症で経過することが多いですが、症状が強い場合や合併症が疑われる場合は、医師の診察を受けることが重要です。
麻疹・風疹の予防法
麻疹と風疹の最も効果的な予防法は、予防接種(ワクチン)です。
MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)
日本では、麻疹と風疹の予防接種は、MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)として同時に受けることができます。
定期接種スケジュール
- 第1期:1歳から2歳の誕生日前日まで
- 第2期:小学校入学前の1年間(年長児)
2回の接種で、麻疹と風疹に対する十分な免疫を獲得できるとされています。
大人の予防接種
麻疹や風疹にかかったことがなく、予防接種も受けていない方や、接種歴が不明な方は、成人になってからでも予防接種を受けることが推奨されます。特に以下の方は優先的に接種を検討しましょう。
麻疹・風疹の予防接種が推奨される成人
- 医療従事者
- 教育・保育関係者
- 海外渡航予定者
- 妊娠を希望する女性とその家族
- 風疹抗体価が低い方
当クリニックでは、成人の方へのMRワクチン接種も行っています。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
抗体検査
予防接種を受ける前に、既に免疫があるかどうかを確認するために抗体検査を行うことがあります。特に風疹については、妊娠を希望する女性や、妊婦の夫などは抗体検査を受けることが推奨されています。
当クリニックでは、麻疹・風疹の抗体検査も実施しております。結果に基づいて、予防接種の必要性をご案内します。
当クリニックでの麻疹・風疹への対応
当クリニックでは、麻疹・風疹に関する以下のようなサービスを提供しています。
予防接種
小児の定期接種
定期接種対象年齢のお子さまへのMRワクチン接種を行っています。
成人の任意接種
麻疹・風疹の免疫が不十分な成人の方へのMRワクチン接種も実施しています。
抗体検査
血液検査で麻疹・風疹の抗体価を測定し、免疫状態を確認します。特に妊娠を希望する女性や、妊婦の夫、海外渡航予定の方などには積極的にお勧めしています。
診察・治療
麻疹や風疹かもしれないと思われる場合は、適切な検査と診断を行い、症状に応じた治療を提供します。必要に応じて、専門医療機関への紹介も行います。
まとめ

麻疹と風疹は、ワクチンで予防できる感染症です。特に風疹は妊娠中に感染すると胎児に影響が出る可能性があるため、ワクチン接種による社会全体での予防が重要です。
麻疹や風疹が疑われる症状がある場合や、予防接種・抗体検査をご希望の方は、当クリニックにお気軽にご相談ください。特に以下の方は優先的に対応させていただいております。
- 妊娠を希望する女性とそのパートナー
- 海外渡航予定の方
- 予防接種歴が不明な方
当クリニックでは、患者さん一人ひとりの状況に合わせた適切なアドバイスと医療サービスを提供し、麻疹・風疹の予防と早期発見・治療に努めています。