胃癌とは
胃癌とは、胃の内側を覆う粘膜層に発生する悪性の腫瘍です。国内では毎年およそ10万人ほどが診断され、高齢になるにつれて増加します。胃癌は初期段階では粘膜内にとどまりますが、進行すると胃壁の深い層に浸潤したり、周囲のリンパ節や他の臓器に転移したりするため、早期発見が治癒のカギとなるのです。
胃癌の発症に関わる要素
胃癌の発生には、以下のようないくつかの要因が関連していると考えられています。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染
胃癌発生の最も重要なリスク因子とされ、胃粘膜の慢性的な炎症を引き起こす原因です。日本人の胃癌の約80%はピロリ菌感染が関与しているといわれています。
食生活
塩分の多い食事や、加工食品を過剰に食べると胃癌のリスクを高めるといわれています。
喫煙・飲酒
喫煙は胃癌の発生リスクを高めるとされています。また、過度の飲酒も胃粘膜を刺激し、癌のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
遺伝的要因
家族に胃癌の方がいる場合、患者さん本人にも胃癌のリスクが高まる可能性があります。
胃癌の主な症状
胃癌の初期段階では自覚症状がほとんどないことが多く、これが早期発見を難しくしています。しかし、進行するにつれて以下のような症状が現れることがあります。
- 食欲不振
- 食後の胃もたれ感
- 食べにくさや飲み込みにくさ
- 体重の極端な減少
- みぞおちの痛みや不快感
- 胸やけ
- むかつきや吐き気
- 原因不明の貧血(特に鉄欠乏性貧血)
- 便が黒くなる(消化管出血の可能性)
- 全身の倦怠感
これらの症状は他の消化器疾患でも見られるため、症状だけで胃癌かどうかの判断はできません。
胃癌の検査、診断の方法

胃癌を調べるうえでまず行う検査は、内視鏡検査(胃カメラ)です。内視鏡検査で胃内をくまなく観察し、胃癌を疑う病変が見つかった場合、組織を採取(生検)し病理検査を行います。これで癌細胞が認められれば、胃癌と診断されます。
その他、バリウム検査、CT検査などを行い、病変の範囲、進展の程度、転移の有無などを総合的に評価し、治療方針の決定を行います。
血液検査では、貧血の有無や、栄養状態、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)の測定を行います。ただし、腫瘍マーカーは早期では上昇しないことも多く、スクリーニング検査としては限界があります。
また、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染の有無を調べることがあります。これは今後の胃癌の再発を予防するための検査となります。
胃癌の早期発見のために

胃癌は早期に発見できれば、より身体への負担が少ない治療が可能になり、治療成績も良好です。早期発見のためには、以下のポイントが重要です。
定期的な健康診断・がん検診
胃癌の早期発見には、定期的な健康診断やがん検診が有効です。
対象年齢と頻度
50歳以上の方は2年に1回、内視鏡検査やバリウム検査を受けましょう。ただし、胃癌のリスクが高い方(ピロリ菌感染者、萎縮性胃炎のある方、胃癌の家族歴のある方など)は、より若い年齢から、また頻度を増やして検査を受けることをおすすめします。
検診方法の選択
内視鏡検査とバリウム検査にはそれぞれ特徴があります。内視鏡検査はより詳細な観察が可能であり、病変が見つかった場合、組織を採取することができます。バリウム検査と比較し精度が高い検査と言えますが、検査時に負担を感じられる方もいます。
バリウム検査もげっぷを我慢したり、検査中に動いてもらう必要がある検査です。バリウムで異常が見つかった場合、内視鏡での精密検査が必要になります。
自分に合った検査方法を医師と相談して選びましょう。
胃癌のリスク評価
ピロリ菌検査
ピロリ菌感染は胃癌の主要なリスク因子です。検査で陽性であれば、除菌治療を検討しましょう。
ペプシノゲン検査
血液検査で胃粘膜の萎縮の程度を評価し、胃癌のリスクを判定します。
ABC検診
ピロリ菌検査とペプシノゲン検査を組み合わせた検診方法で、胃癌のリスクをA〜Dの4群に分類します。リスクが高いほど、より積極的な検査が推奨されます。
胃癌の治療法
胃癌の治療は、ステージや患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。
内視鏡治療
早期胃癌(粘膜〜粘膜下層の一部にとどまるもの)では、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの内視鏡治療が選択されることがあります。低侵襲で体への負担が少なく、入院期間も短いのが特徴です。
外科手術
ステージI〜IIIの多くの症例では、外科手術が基本的な治療法となります。癌のある部分の大腸と周囲のリンパ節を切除します。近年では腹腔鏡手術やロボット支援手術など、より低侵襲な手術も増えています。
化学療法(抗がん剤治療)
ステージIIIやIVなど、再発リスクが高い場合や転移がある場合には、手術と併用して化学療法が行われることがあります。また、手術が難しい進行癌では、化学療法が主な治療となることもあります。
分子標的薬治療
特定の遺伝子変異を持つ大腸癌では、その特性を標的とした分子標的薬が用いられることがあります。
緩和医療
癌によって生じる痛みや苦しみを緩和する治療が緩和医療です。痛みのコントロールや食事が摂れない時の栄養サポート、精神的な負担の緩和などが該当します。どのステージであっても、癌の積極的な治療と並行して行われます。
当クリニックでの胃癌の診療
当クリニックでは、胃癌の早期発見・早期治療を目指して、以下のような診療を行っています。
胃癌検診・診断
内視鏡検査(胃カメラ)
最新の内視鏡機器を導入し、鎮静剤を使用した苦痛の少ない検査を心がけています。経鼻内視鏡(鼻から挿入する細い内視鏡)も対応可能です。
ピロリ菌検査・除菌治療
尿素呼気試験、便中抗原検査、血清抗体検査などでピロリ菌感染の有無を確認し、必要に応じて除菌治療を行います。
リスク評価
ペプシノゲン検査やABC検診を実施し、胃癌のリスクを評価します。リスクに応じた検査計画をご提案します。
治療および医療連携
早期胃癌と診断された場合、内視鏡的治療の適応かどうかを判断し、必要に応じて専門医療機関をご紹介します。また、手術や化学療法が必要な場合には、連携する地域の基幹病院をご紹介し、診断から治療後のフォローアップまで一貫したサポートを行います。
患者さんへのサポート
胃癌と診断された患者さんやそのご家族の不安やご質問にきめ細かく対応し、治療選択や療養生活についてのアドバイスを行います。また、治療後の食事指導や生活指導も行っています。
まとめ
胃癌は日本人に多い癌ですが、早期に発見できれば治療成績が良好であることが特徴です。定期的な健康診断やがん検診を受けることで、症状が現れる前に発見できる可能性が高まります。
また、ピロリ菌検査や除菌治療、生活習慣の改善によって、胃癌のリスクを下げることも重要です。何か気になる症状があれば、自己判断せずに専門医に相談することをお勧めします。
当クリニックでは、胃癌の早期発見から治療後のフォローアップまで、患者さん一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。胃の不調や胃癌に関する不安がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。