原発性硬化性胆管炎(PSC)

PSC(原発性硬化性胆管炎)とは

原発性硬化性胆管炎(Primary Sclerosing Cholangitis:PSC)は、肝臓内外の胆管に慢性的な炎症が生じ、次第に胆管が狭くなったり閉塞したりする自己免疫性の疾患です。胆管は肝臓で作られた胆汁を十二指腸へ運ぶ管状の構造で、肝臓内の細い胆管から肝外の太い胆管まで、樹木の枝のように広がっています。 この疾患では、胆管壁に炎症が起こることで線維化が進行し、胆管の内腔が狭くなることで胆汁の流れが障害されます。その結果、胆汁が肝臓内に停滞し、肝細胞の障害や肝機能の低下を引き起こします。最終的には肝硬変へと進行し、肝移植が必要になる場合もあります。 PSCは男性にやや多く、好発年齢は20歳~40歳と65歳~75歳の二峰性の年齢分布となります。また、患者さんの約60%に潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患を合併することが知られており、これがPSCの特徴的な所見の一つとなっています。

PSCの原因と発症メカニズム

PSCの正確な原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的素因、自己免疫反応、環境因子、腸内細菌叢の異常、などが大きく関与していると考えられています。

PSCの症状と経過

PSCの症状は病気の進行段階によって大きく異なります。初期段階では多くの患者さんが無症状で、血液検査の異常値から偶然発見されることがよくあります。

初期症状

PSCの初期症状として最も多いのは全身の疲労感や倦怠感です。これは肝機能の低下に伴って現れる症状で、日常生活に支障をきたすほど強い場合もあります。また、右上腹部の鈍痛や不快感を訴える患者さんも多く、これは肝臓の腫大や胆管の炎症によるものと考えられています。 皮膚のかゆみも比較的早期から現れる症状の一つです。これは胆汁うっ滞により血液中にビリルビンや胆汁酸が増加することで起こります。かゆみは特に夜間に強くなることが多く、睡眠障害の原因となることもあります。

進行期の症状

病気が進行すると、黄疸が現れるようになります。これは胆管の狭窄により胆汁の流れが著しく障害され、血液中のビリルビン値が上昇するためです。黄疸は最初に眼球結膜(白目の部分)の黄染として現れ、その後皮膚全体が黄色くなります。また、尿の色が紅茶のように濃くなったり、便の茶色が薄くなるといった変化も、胆汁流出障害のひとつの症状です。肝機能がさらに低下すると、肝不全症状が出現します。

PSCの診断

PSCの診断には複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。まず血液検査では、胆道系酵素であるビリルビン、ALP(アルカリホスファターゼ)、γ-GTPの著明な上昇や、肝機能を示すGOT(AST)、GPT(ALT)の上昇が特徴的です。

画像診断の重要性

PSCの確定診断には、胆管の形態を詳しく観察できる画像検査が不可欠です。MRCP(MR胆管膵管撮影)は非侵襲的でありながら胆管の詳細な画像を得ることができるため、現在では第一選択の検査となっています。 MRCPでは、胆管の狭窄と拡張が交互に現れる「数珠状変化」と呼ばれる特徴的な所見を観察することができます。この所見はPSCに特徴的で、診断の決め手となることが多くあります。より詳細な評価が必要な場合には、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)が行われることもあります。

組織検査と鑑別診断

肝生検や胆管生検による組織学的検査も診断に有用です。PSCでは胆管周囲の線維化や炎症細胞の浸潤、胆管の消失などの特徴的な所見が見られます。ただし、これらの変化は病気の進行度によって異なるため、臨床症状や他の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要です。 PSCと似た症状を示す疾患として、二次性硬化性胆管炎や自己免疫性肝炎などがあるため、これらとの鑑別診断も必要になります。詳細な病歴聴取や各種検査結果を総合して、正確な診断を行います。

PSCの治療と管理

現在のところ、PSCの根本的な治療法は確立されていませんが、症状の緩和と病気の進行を遅らせるための治療が行われています。

薬物療法

ウルソデオキシコール酸は、PSCの治療において最も広く使用されている薬剤です。この薬剤は胆汁の流れを改善し、肝機能の改善効果が期待されています。多くの患者さんで肝機能検査値の改善が見られますが、病気の進行を完全に止めることは困難とされています。 かゆみに対しては、コレスチラミンなどの胆汁酸結合樹脂が使用されます。これらの薬剤は腸管内で胆汁酸と結合し、体外への排出を促進することでかゆみの軽減を図ります。また、抗ヒスタミン薬や抗うつ薬が使用される場合もあります。

内視鏡的治療

胆管の狭窄が高度な場合には、内視鏡を用いた治療が行われることがあります。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)で胆管の中にアプローチし、胆管の狭くなった部位にステント呼ばれるチューブを挿入して胆汁の流れを改善します。ステントを留置することによって一時的に症状の改善や肝機能の改善が得られることがありますが、根本的な治療ではないため、定期的な処置が必要になる場合があります。

合併症の管理

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患を合併することが、PSCの大きな特徴であり、炎症性腸疾患の管理、治療が必要になります。また、PSC患者さんは胆管がんや大腸がんの発症リスクが高いことが知られているため、定期的ながん検診も欠かせません。肝障害が進行し肝不全に至った場合、肝移植が行われることもあります。

当クリニックでのPSCの診療

当クリニックでは、PSCの患者さんに対して包括的な医療サービスを提供しています。

早期診断への取り組み

血液検査で肝機能異常が見つかった患者さんに対して、詳細な追加検査を実施し、PSCの可能性を含めた幅広い鑑別診断を行います。必要に応じて、提携する専門医療機関でのMRCPやERCPなどの精密検査の手配も迅速に行います。 特に炎症性腸疾患を患っている患者さんや、家族歴のある患者さんについては、より注意深く肝機能の変化を観察し、早期発見に努めています。定期的な血液検査により、病気の進行を的確に把握し、適切なタイミングでの治療介入を目指しています。

継続的な病状管理

PSCは長期間にわたる経過観察と治療が必要な疾患です。患者さん一人ひとりの病状に応じて、最適な治療計画を立案し、定期的な見直しを行います。薬物療法の効果判定や副作用のチェック、合併症の早期発見なども含めた総合的な管理を実施しています。 また、患者さんやご家族への病気に関する詳しい説明や、日常生活における注意点についても丁寧にお伝えしています。PSCは比較的珍しい疾患であるため、患者さんの不安や疑問にできる限りお答えし、安心して治療を継続していただけるよう心がけています。

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