B型肝炎について
B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)の感染により肝臓に炎症が起こる疾患で、急性肝炎から慢性肝炎、さらには肝硬変や肝癌に進行する可能性がある疾患です。
B型肝炎ウイルスは、肝細胞に感染して炎症を引き起こすウイルスで、感染力が非常に強く、C型肝炎ウイルスよりも感染力が強いウイルスです。ウイルスは肝細胞内で増殖し、免疫系による攻撃を受けることで肝炎が発症します。
世界的に約2億人が感染していると推定され、日本でも約150万人のキャリアが存在するとされています。
B型肝炎の感染経路
母子感染
B型肝炎に感染している母親から赤ちゃんへ感染する経路です。分娩時の血液や分泌物との接触により感染しますが、現在では妊婦健診でのスクリーニングと新生児へのワクチン接種により、大幅に減少しています。
母子感染による場合、乳幼児期からの感染となるため慢性化しやすく、将来の肝硬変や肝癌のリスクが高くなります。そのため、予防対策が極めて重要です。
水平感染
成人では、性行為による感染が最も多い感染経路となります。感染者の血液、精液、膣分泌液などの体液に接触することで感染が成立します。また、注射器の共用、入れ墨、ピアスの穴あけなども感染リスクとなります。
医療現場での針刺し事故による感染もあり、医療従事者は特に注意が必要です。日常生活での感染リスクは低いものの、歯ブラシやカミソリなどの血液が付着する可能性のある物品の共用は避けるべきです。
B型肝炎の症状
B型肝炎ウイルスは肝細胞に感染し、慢性的な炎症を引き起こします。感染時期や感染経路により、急性肝炎として発症する場合と、慢性的に経過する場合があります。慢性B型肝炎は長期間にわたって肝臓に炎症を起こし続け、適切な治療を行わないと肝硬変や肝がんに進行するリスクがあります。
急性B型肝炎
成人期に初めて感染した場合、多くは急性肝炎として発症します。発熱、倦怠感、食欲不振、黄疸などの症状が現れ、通常は数か月で自然治癒しますが、まれに劇症肝炎に進行することもあります。急性期の適切な管理により、慢性化を防ぐことが重要です。
慢性B型肝炎
乳幼児期の感染や、成人期の感染でも一部の患者さんでは慢性化します。慢性B型肝炎は長期間無症状で経過することが多く、定期的な検査により肝機能や ウイルス量を監視することが必要です。
肝硬変・肝がんへの進行
慢性B型肝炎が進行すると、肝線維化が進み、最終的には肝硬変に至ります。肝硬変になると肝機能が著しく低下し、黄疸、腹水、肝性脳症、食道静脈瘤などの合併症が現れます。また、肝硬変や慢性肝炎の状態から肝がんが発症するリスクも高くなるため、定期的な画像検査による早期発見が重要です。
B型肝炎の診断

血液検査による診断
B型肝炎の診断は、血液検査により行われます。HBs抗原が陽性の場合、現在B型肝炎ウイルスに感染していることを示します。HBs抗体が陽性の場合は、過去の感染またはワクチン接種による免疫獲得を示します。
HBe抗原とHBe抗体は、ウイルスの増殖活性を示す指標で、治療方針の決定や経過観察に重要です。HBV-DNA量の測定により、体内のウイルス量を正確に把握できます。
肝機能検査
AST(GOT)、ALT(GPT)などの肝酵素の上昇により、肝炎の活動性を評価します。これらの数値が持続的に高値を示す場合は、積極的な治療が必要になることがあります。
ビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間なども肝機能の評価に重要で、肝硬変への進行度の判定にも用いられます。
画像検査
腹部超音波検査やCT検査により、肝臓の形態や肝硬変の有無を評価します。また、肝癌の早期発見のためのスクリーニング検査としても重要です。
必要に応じて肝生検を行い、肝臓の炎症や線維化の程度を詳しく評価することもあります。
B型肝炎の治療
核酸アナログ製剤
現在、B型肝炎の標準的な治療として核酸アナログ製剤が広く使用されています。エンテカビル、テノホビル、テノホビル アラフェナミドなどの薬剤により、ウイルスの増殖を強力に抑制することができます。これらの薬剤は経口薬で、比較的副作用が少なく、長期間の服用が可能です。
核酸アナログ製剤による治療では、ウイルス量の著明な減少とともに、肝機能の改善が期待できます。治療開始後は定期的にウイルス量と肝機能を測定し、治療効果を評価いたします。多くの患者さんで、治療開始から数か月でウイルス量が検出限界以下まで低下し、肝機能の正常化が得られます。
インターフェロン治療
若年の患者さんや、HBe抗原陽性の患者さんには、ペグインターフェロン治療も選択肢の一つです。48週間の治療期間で、ウイルスの完全排除や HBe抗原の陰性化を目指します。インターフェロン治療では、治療終了後も効果が持続する可能性があり、薬剤の長期服用を避けられるメリットがあります。
ただし、インターフェロン治療は副作用が比較的多く、発熱、倦怠感、うつ症状などが現れることがあります。患者さんの年齢、全身状態、社会的背景を考慮して、治療適応を慎重に判断いたします。
肝機能改善薬
抗ウイルス療法と併用して、肝機能の改善を目的とした肝庇護療法も実施いたします。ウルソデオキシコール酸、強力ネオミノファーゲンCなどの薬剤により、肝細胞の保護と肝機能の改善を図ります。これらの薬剤は副作用が少なく、長期間安全に使用できます。
生活指導と栄養管理
B型肝炎患者さんにとって、適切な生活習慣の維持は治療効果を高める重要な要素です。禁酒、適度な運動、十分な休養、バランスの取れた食事について詳しくご指導いたします。特にアルコールは肝炎の進行を促進するため、完全な禁酒をお勧めいたします。
栄養状態の改善も重要で、肝機能が低下している患者さんでは、タンパク質の摂取量や分岐鎖アミノ酸の補充についても指導いたします。また、肝性脳症の予防のため、食事療法についても個別にアドバイスいたします。
治療後の管理
肝機能・ウイルス量のモニタリング
B型肝炎の治療では、定期的な血液検査による経過観察が不可欠です。肝機能(AST、ALT)、ウイルス量(HBV-DNA)、肝炎の活動性を示すマーカーを定期的に測定し、治療効果や病状の変化を評価いたします。
治療中の患者さんでは、月1回から3か月に1回の頻度で検査を実施し、治療効果や副作用の有無を確認いたします。ウイルス量が検出限界以下を維持し、肝機能が正常化した場合でも、定期的な監視を継続することが重要です。
肝がんスクリーニング
慢性B型肝炎患者さんでは、肝がんの発症リスクが高いため、定期的な画像検査による早期発見が重要です。腹部超音波検査を3か月から6か月ごとに実施し、必要に応じてCTやMRI検査も行います。
また、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II)の測定も定期的に行い、肝がんの早期発見に努めます。万が一肝がんが発見された場合でも、早期であれば根治的治療が可能であり、定期的な検査の重要性をご理解いただけるよう説明いたします。
B型肝炎の予防
B型肝炎ワクチン
B型肝炎は予防可能な疾患であり、ワクチン接種により確実に予防することができます。HBs抗体を持たない方には、3回のワクチン接種により免疫を獲得していただくことをお勧めいたします。
家族にB型肝炎患者がいる方、医療従事者、血液透析患者さんなどは特に接種が推奨されます。その他、海外渡航予定の方や、感染リスクの高い環境で働く方にも積極的な接種をお勧めいたします。任意接種のスケジュールは初回、1か月後、6か月後の3回接種が標準的です。
定期接種のスケジュールは、生後2か月、3か月、7-8か月の3回接種が推奨されています。
母子感染の予防
B型肝炎ウイルス陽性の妊婦さんでは、出産時の母子感染を防ぐための対策が重要です。妊娠後期からの抗ウイルス薬投与により、ウイルス量を低下させ、感染リスクを軽減することができます。
一方、B型肝炎ウイルス陽性の母親から生まれた新生児には、出生直後にB型肝炎ワクチンとB型肝炎免疫グロブリンの投与を行います。適切な処置により、母子感染を95%以上の確率で防ぐことができます。
当クリニックでのB型肝炎の診療
当クリニックでは、B型肝炎が疑われる方やキャリアの方に対して、適切な血液検査により正確な診断を行います。ウイルス量や肝機能を詳しく評価し、病気の活動性や治療の必要性を判定いたします。
定期的な検査により病状の変化を監視し、治療開始時期や治療法の選択について適切にアドバイスいたします。肝癌のスクリーニング検査も定期的に実施し、早期発見に努めます。
抗ウイルス薬治療、肝硬変や肝がんなど専門的な治療が必要な場合は、信頼できる専門医療機関への紹介を行い、患者さんが最適な医療を受けられるよう連携を図ります。
ワクチン未接種の方には、接種の重要性について説明し、適切な時期での接種を推奨いたします。また、家族や接触者への感染拡大防止についても詳しくご指導いたします。
B型肝炎は適切な治療と管理により、病気の進行を防ぎ、健康な生活を維持することができる疾患です。最新の治療法と丁寧な経過観察により、患者さんの生活の質の向上を目指します。一人で悩まず、まずはお気軽にご相談ください。専門的な知識と経験に基づき、患者さん一人ひとりに最適な治療をご提案いたします。