消化器内科は、食物の消化・吸収に関わるさまざまな臓器(食道、胃、腸、肝臓、胆嚢、膵臓など)の疾患を専門的に診る内科分野です。「胸やけがする」「お腹の調子が悪い」「便通に異常がある」といった症状でお悩みの方が受診される診療科です。以下では、当クリニックで対応している主な消化器系疾患について解説します。
食道癌
食道の粘膜から発生する悪性腫瘍です。初期は無症状であることが多く、進行すると嚥下困難感や胸部痛、体重減少などが現れます。長年の喫煙・過度の飲酒・熱い食べ物の常用などが主なリスク因子です。内視鏡検査やCT検査で診断し、早期発見・早期治療が予後改善に重要です。
逆流性食道炎
胃の内容物や酸が食道へ逆流して炎症を引き起こす疾患です。胸焼け、げっぷ、胃の不快感、吐き気などの症状が特徴的です。過食、早食い、高脂肪食、アルコール摂取、肥満、不良姿勢、加齢、特定薬剤の副作用などが原因となります。生活習慣の見直しと胃酸分泌抑制薬による治療が基本です。
食道静脈瘤
主に肝硬変などによる門脈圧亢進症から、食道の静脈が異常拡張した状態です。無症状のことが多いですが、破裂すると命に関わる大量出血を引き起こす危険性があります。定期的な内視鏡検査での経過観察が重要で、内視鏡的治療や薬物療法などで管理します。
カンジダ食道炎
真菌(カンジダ属)の感染による食道の炎症性疾患です。免疫低下状態、長期の抗生物質・ステロイド使用、糖尿病などが背景にあります。嚥下痛、胸痛、嘔気・嘔吐などの症状があり、重症例では潰瘍形成や出血もみられます。内視鏡検査と組織診断で確定し、抗真菌薬で治療します。
胃癌
胃粘膜に発生する悪性腫瘍です。早期は無症状ですが、進行すると胃部不快感、胸やけ、食欲不振などの症状が出現します。また、腫瘍からの出血による貧血や黒色便も特徴的です。ピロリ菌感染が最大のリスク因子とされており、早期発見が重要です。
胃潰瘍
胃酸の作用で胃粘膜に損傷・潰瘍が形成される疾患です。ピロリ菌感染、薬剤(NSAIDs等)、ストレス、喫煙・飲酒などが原因です。みぞおち部の疼痛、嘔気・嘔吐、食欲低下などが典型的で、重症化すると吐血や黒色便がみられることもあります。
胃ポリープ
胃粘膜にできる隆起性病変で、多くは症状がありません。ピロリ菌感染や胃酸過剰分泌が関連しています。種類によっては癌化リスクがあるため、定期的な内視鏡フォローが必要です。ピロリ菌陽性例では除菌療法を行い、出血リスクやがん疑いがある場合はポリープ切除を検討します。
十二指腸癌
十二指腸に発生する比較的稀な悪性腫瘍です。初期は無症状ですが、進行すると腹痛、腹部膨満、嘔吐、貧血、黒色便などが出現します。発症要因は明確ではありませんが、家族歴や消化性潰瘍の既往がリスク因子として考えられています。外科的切除が基本治療で、進行例では放射線療法や化学療法も併用します。
十二指腸潰瘍
胃酸の影響で十二指腸粘膜に潰瘍が形成される疾患です。ピロリ菌感染、薬剤、ストレス、生活習慣などが原因です。特に空腹時のみぞおち痛が特徴的で、タール便や背部痛を伴うこともあります。粘膜保護薬や酸分泌抑制薬による治療が中心ですが、出血例では内視鏡的止血処置が必要となります。
大腸癌
大腸に発生する悪性腫瘍です。早期発見できれば治癒率は高いものの、初期は無症状です。進行すると血便、排便習慣変化、便細小化、残便感、貧血、腹痛などの症状が現れます。食生活が大きく関与し、50代以上で罹患率が上昇するため、定期的な検診が推奨されます。
大腸ポリープ
大腸粘膜にできるいぼ状の隆起性病変です。通常は無症状ですが、放置すると大腸癌へ進展するリスクがあります。早期発見・治療が重要で、多くは内視鏡的切除が可能です。内視鏡切除が困難な例や進行癌例では外科手術が選択されます。
潰瘍性大腸炎
大腸粘膜に炎症や潰瘍を生じる原因不明の炎症性腸疾患です。血便を伴う下痢、腹痛、体重減少などが主症状で、重症例では発熱や頻脈、めまいも出現します。寛解と再燃を繰り返す経過をたどることが特徴的です。
クローン病
消化管(特に小腸・大腸)に慢性炎症や潰瘍を来す原因不明の疾患です。腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱などが主症状です。遺伝的要因やウイルス感染などが関与すると考えられていますが、明確な原因は不明です。栄養療法や薬物療法が基本ですが、腸閉塞や穿孔などの合併症では外科治療も検討します。
憩室症
消化管壁の一部が外側に突出した袋状の状態です。大腸に多く、多くは無症状ですが、炎症や出血を引き起こすことがあります。憩室炎では腹痛、下痢、発熱などがみられ、高齢者では左下腹部痛が特徴的です。炎症例には抗菌薬投与と腸管安静が有効で、大量出血例では内視鏡的止血術を行います。
腸結核
結核菌による腸管感染症です。腹痛、下痢、血便、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの症状を呈します。内視鏡検査や画像検査で診断し、確定には生検が必要です。抗結核薬による化学療法が主治療で、通常2〜4週間で臨床的改善がみられます。穿孔、出血、腸閉塞などの合併症では外科治療も考慮します。
粘膜下腫瘍
消化管の粘膜下層に発生する腫瘍の総称です。胃、大腸、食道などに生じ、多くは良性ですが悪性例も存在します。小さい腫瘍では無症状ですが、増大すると腹痛、嘔気・嘔吐、消化管出血などを引き起こすことがあります。内視鏡検査やCT検査で診断し、腫瘍の性状や大きさ、症状に応じて内視鏡的切除や手術を検討します。
大腸メラノーシス
大腸粘膜の色素沈着状態で、内視鏡検査で偶然発見されることが多いです。正常粘膜と異なり黒色や褐色に変色し、主に右側結腸に好発します。通常は無症状で健康上の問題は少ないですが、慢性便秘や下剤常用との関連が指摘されており、生活習慣見直しのきっかけとなります。
虚血性腸炎
腸管の血液供給が一時的に減少・遮断されることで発症する疾患です。主に大腸(特に下行結腸・脾湾曲部)に多発します。突然の腹痛(特に左側腹部)と血便が特徴で、腹痛と食事の関連は薄く、その後に鮮血や暗赤色血液を混じた便が出現します。下痢、軟便、腹部不快感を伴うこともあります。多くは1〜2週間で改善しますが、重症例では入院加療が必要となることもあります。
食道アカラシア
食道の蠕動運動が障害され、下部食道括約筋の弛緩不全により食物の胃への通過が困難になる疾患です。食物のつかえ感、嚥下困難、胸痛、逆流などが主症状で、進行すると体重減少や誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります。内視鏡検査やバリウム検査で診断し、薬物療法、内視鏡的治療、外科手術などで対応します。
慢性胃炎(萎縮性胃炎)
胃粘膜の慢性的な炎症により粘膜が萎縮・菲薄化した状態です。長期間のピロリ菌感染が主な原因で、胃がんの前癌状態として注意が必要です。胃もたれ、食後の不快感、食欲低下などの症状がありますが、無症状の場合も多くあります。ピロリ菌除菌療法と定期的な内視鏡検査による経過観察が重要です。
ピロリ菌
胃粘膜に感染する細菌で、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因となります。感染者の多くは無症状ですが、胃もたれ、腹部不快感などを訴えることがあります。血液検査、便検査、呼気検査、内視鏡検査などで診断し、抗生物質と胃酸分泌抑制薬を組み合わせた除菌療法を行います。除菌成功により胃がんリスクの軽減が期待できます。
アニサキス
魚介類の生食により寄生虫(アニサキス幼虫)が胃や小腸壁に侵入して起こる急性の食中毒です。摂食後数時間から十数時間で激しい腹痛、嘔気・嘔吐が突然出現します。胃アニサキス症では心窩部痛が、腸アニサキス症では臍周囲痛が特徴的です。内視鏡検査で虫体を確認・摘出することで症状は速やかに改善します。
機能性ディスペプシア
胃の運動機能や知覚機能の異常により、器質的疾患がないにも関わらず慢性的な胃部症状を呈する疾患です。食後の胃もたれ、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感などが主症状で、ストレスや不規則な生活が誘因となることが多いです。生活習慣の改善、消化管機能改善薬、酸分泌抑制薬などで治療します。
胆嚢炎
胆嚢の炎症性疾患で、急性と慢性に分けられます。胆石による胆嚢管閉塞が最も多い原因です。右季肋部痛、発熱、嘔気・嘔吐が特徴的で、重症例では黄疸や敗血症を合併することもあります。超音波検査やCT検査で診断し、抗生物質投与、胆嚢摘出術などで治療します。急性例では緊急手術が必要となる場合があります。
過敏性腸症候群
器質的疾患がないにも関わらず、腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢・便秘)を慢性的に繰り返す機能性疾患です。ストレス、食事、生活習慣の乱れなどが関与し、便秘型、下痢型、混合型に分類されます。食事療法、運動療法、ストレス管理、薬物療法を組み合わせて治療し、生活の質の改善を図ります。
細菌性腸炎
細菌感染による急性腸炎で、サルモネラ、カンピロバクター、病原性大腸菌などが原因となります。下痢、腹痛、発熱、嘔気・嘔吐などの症状が急激に出現し、血便を伴うこともあります。便培養検査で原因菌を同定し、軽症例では対症療法、重症例では抗生物質投与を行います。脱水予防のための水分・電解質補給も重要です。
B型肝炎
B型肝炎ウイルス(HBV)による肝臓の炎症性疾患です。急性型と慢性型があり、血液や体液を介して感染します。急性期では倦怠感、食欲不振、黄疸などが出現しますが、慢性型では無症状のことが多いです。血液検査でウイルスマーカーを測定して診断し、抗ウイルス薬や肝庇護薬で治療します。定期的な肝機能検査と画像検査による経過観察が必要です。
C型肝炎
C型肝炎ウイルス(HCV)による肝臓の炎症性疾患です。多くは慢性化し、肝硬変や肝がんへ進行するリスクがあります。初期は無症状ですが、進行すると倦怠感、食欲不振、黄疸などが出現します。血液検査でウイルス量や遺伝子型を調べ、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療で高い治癒率が期待できます。
アルコール性肝障害
長期間の過度な飲酒により肝臓に生じる一連の病変です。脂肪肝、アルコール性肝炎、肝硬変の順に進行することが多く、初期は無症状ですが、進行すると黄疸、腹水、肝性脳症などが出現します。最も重要な治療は断酒で、肝庇護薬や栄養療法も併用します。早期の断酒により肝機能の改善が期待できます。
自己免疫性肝炎
自己免疫機序により肝細胞が破壊される慢性肝疾患です。中年女性に多く、倦怠感、食欲不振、黄疸などの症状がみられます。血液検査で自己抗体や免疫グロブリンの上昇を認め、肝生検で確定診断します。ステロイドや免疫抑制薬による治療で炎症を抑制し、多くの症例で良好な経過が得られます。
胆嚢結石
胆嚢内にできる結石で、コレステロール系結石とビリルビン系結石に分類されます。多くは無症状ですが、胆嚢管に嵌頓すると右季肋部の激痛(胆石発作)を引き起こします。超音波検査やCT検査で診断し、無症状例では経過観察、症状がある場合や合併症リスクが高い場合は胆嚢摘出術を検討します。
胆嚢ポリープ
胆嚢粘膜にできる隆起性病変で、多くは良性のコレステロールポリープです。通常は無症状で健康診断の超音波検査で偶然発見されます。10mm以上の大きなポリープや増大傾向がある場合は悪性の可能性があるため、定期的な画像検査による経過観察や胆嚢摘出術を検討します。
原発性硬化性胆管炎(PSC)
胆管の慢性炎症により胆管の狭窄や閉塞を来す原因不明の疾患です。炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)との合併が多くみられます。初期は無症状ですが、進行すると黄疸、皮膚掻痒感、腹痛などが出現します。MRCP(磁気共鳴胆管膵管撮影)で診断し、胆汁うっ滞改善薬や免疫抑制薬で治療しますが、進行例では肝移植が必要となることもあります。
総胆管結石
総胆管内にできる結石で、胆嚢から移動したものと胆管内で形成されたものがあります。黄疸、右季肋部痛、発熱を呈することが多く、重症化すると胆管炎や膵炎を合併します。血液検査、画像検査で診断し、内視鏡的結石除去術(ERCP)や外科手術で治療します。胆管炎合併例では緊急的な処置が必要です。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
膵管内に粘液を産生する腫瘍で、良性から悪性まで様々な段階があります。多くは無症状で画像検査で偶然発見されますが、大きくなると腹痛や膵炎を引き起こすことがあります。CT、MRI、内視鏡的膵管造影などで診断し、悪性化リスクに応じて経過観察または外科的切除を選択します。
急性膵炎
膵臓の急性炎症性疾患で、アルコール過飲や胆石が主な原因です。激しい上腹部痛(背部に放散)、嘔気・嘔吐、発熱が特徴的で、重症例では多臓器不全を来すこともあります。血液検査で膵酵素の上昇を確認し、CT検査で重症度を評価します。絶食、輸液、鎮痛薬による保存的治療が基本で、重症例では集中治療が必要です。
慢性膵炎
膵臓の慢性炎症により膵実質の線維化と膵機能低下を来す疾患です。長期の大量飲酒が最も多い原因で、上腹部痛、脂肪便、糖尿病などが主症状です。CT、MRI、内視鏡検査で診断し、痛みに対しては鎮痛薬、膵外分泌機能不全には消化酵素製剤、糖尿病にはインスリンによる治療を行います。