季節が移り変わる時期、なかでも気温が低くなる時期や空気が冷たく感じる頃になると、「肺炎」の患者さんが増えることがあります。今回は肺炎という病気の基礎から、見過ごしてはいけない体からのサイン、効果が期待できる治療法、そして日々の暮らしの中で実践できる予防策まで、分かりやすくお伝えしていきます。
肺炎とは
肺炎というのは肺の奥にある、小さなブドウの房のような形をした肺胞や、その周りの組織が炎症を起こしてしまう状態のことです。炎症が起こると、私たちが生きていく上で欠かせない、空気中の酸素を体に取り込み、体の中で作られた二酸化炭素を外に出すという、肺の重要な働きがうまくいかなくなってしまい、その結果、呼吸に関するさまざまな、辛い症状が現れてくるのです。
肺炎を引き起こす主な原因は、細菌やウイルスの感染によるものです。例えば、細菌による肺炎でよく知られているのは、肺炎球菌という菌が原因となるものです。また、ウイルスが原因となる肺炎もあり、これにはインフルエンザウイルスやRSウイルスなどが関わっています。それ以外にも、カビの仲間である真菌が原因となることや、食べ物や異物が間違って気管に入ってしまうこと(これを誤嚥と言います)がきっかけで、肺炎が起こることもあるのです。
体からのSOS:肺炎のサインを見逃さないで
肺炎の症状は原因となったウイルス、細菌の種類や患者さんの体力、基礎疾患によって、現れ方が少しずつ違ってきます。しかし一般的には、以下のような兆候が見られることが多いです。
- 咳、痰の様子:肺炎では咳を伴うことが多いです。乾いた咳であったり、痰を伴う湿った咳であったり、咳の様子は様々です。出てくる痰の色も、鉄のさびたような色、黄色みを帯びたもの、緑色っぽくなったりするほか、まれに血が混じることもあります。
- 熱の出方:熱が出ることが多く、寒気がしたり体が震えたりするような、高い熱が出ることがあります。ただしご高齢の方や体の免疫力が弱っている方の場合には、熱がそれほど高くなかったり、場合によっては熱がまったく出ないこともあるので、注意が必要です。
- 呼吸のしにくさ: いつもよりも呼吸しにくかったり、ゼーゼーと音がしたり、呼吸をするスピードが速く、浅くなったりすることがあります。胸にズキッとした痛みを感じたり、何かで締め付けられるような感覚を覚えたりすることもあります。
- 全身のだるさ: 体全体が鉛のように重く感じられ、普段楽しみにしていた食事も美味しく感じられなくなったり、吐き気や実際に吐いてしまうこともあります。
特に気をつけたいのはご高齢の方や、心臓の病気、肺の病気、糖尿病といった、もともと持病をお持ちの方に現れやすい、いつもとは違う少し変わった症状です。「なんだか最近、急に元気がないな」「食欲が落ちて、全然食べない」「何を聞いても、ぼーっとしている」「声をかけても、反応が鈍い」といった様子が見られたら、それは肺炎が陰ながら進行しているサインかもしれません。
「もしかして、これって肺炎の始まりかも?」と感じたら、自分の判断だけで様子を見ようとせず、できるだけ早くお医者さんに相談することが大切です。特に、高熱が出ているとか、息をするのが苦しいと感じるような場合は、すぐに救急外来を受診してください。
肺炎の診断と私たちにできる治療

私たちのクリニックでは、肺炎が疑われる場合、まず患者さんの今の状態や、過去の病気について、じっくりとお話を聞かせていただきます(問診)。その後、聴診器を使って胸の音を聞き、呼吸の状態に何か異常がないかを確認します。肺炎かどうかを診断する上で、とても大切な検査が胸部レントゲン検査です。この検査で、肺の中に炎症による影が見られないかを詳しく調べます。さらに、必要に応じて、血液検査を行って炎症の程度を調べたり、痰の検査(喀痰検査)で、原因となっている微生物を特定したりすることもあります。
肺炎の治療は、見つかった原因となる微生物の種類や、患者さん自身の体の状態に合わせて、個別に考えられます。細菌が原因の肺炎であれば、抗菌薬(抗生物質)を使ったお薬による治療が中心になります。ウイルスが原因の場合には、抗ウイルス薬を使うこともあります。また、熱を下げるお薬や、咳や痰を楽にするお薬なども、症状に合わせて処方されます。
治療期間中は、とにかく無理をせず、体をゆっくりと休めることが一番大切です。また、汗をかいたり、呼吸が速くなったりすることで、体から水分が失われやすいので、こまめに水分を補給するように心がけてください。呼吸がひどく苦しい場合には、病院で酸素を吸う必要があることもあります。肺炎の状態がとても重いと判断された場合には、入院して、より専門的な治療を受けていただくこともあります。
お医者さんから処方されたお薬は、指示された通りに、きちんと最後まで飲み続けることがとても重要です。自分の判断で途中でやめてしまうと、病気がぶり返したり、なかなか治らなくなったりすることがあります。
私たちのクリニックでは、患者さん一人ひとりの状況をしっかりと把握し、それぞれの状態に合わせた、きめ細やかな診断と治療を行うことを心がけています。もし、肺炎かもしれないと感じたら、どんな小さなことでも構いませんので、どうぞ安心してご相談ください。
肺炎から身を守るために:今日からできる予防策

肺炎を予防するためには、日々の生活の中で、ちょっとした工夫を取り入れることが大切です。
- 手洗いとうがいをしっかりと: 外から帰ってきた時や、食事の前には、丁寧に手を洗い、ガラガラうがいをすることで、体の中に病気の原因となるものが入り込むのを防ぎましょう。
- 咳エチケットは守りましょう: 咳やくしゃみが出そうになったら、ティッシュで口と鼻を覆い、周りの人に飛沫がかからないようにしましょう。使ったティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、その後は必ず手を洗いましょう。
- 質の良い睡眠とバランスの取れた食事: 私たちの体の免疫力を高く保つためには、ぐっすりと眠ることと、栄養のバランスが取れた食事をきちんと摂ることが大切です。
- 適度な運動を習慣に: 無理のない範囲で体を動かすことは、全身の免疫力を高める効果が期待できます。
- 部屋の湿度と空気の入れ替え: 空気が乾燥すると、喉や鼻の粘膜が乾いてしまい、病原体が侵入しやすくなります。加湿器を使ったり、定期的に窓を開けて空気を入れ替えたりして、お部屋の湿度を適切に保つようにしましょう。
また、ワクチン接種も、肺炎を予防するための有効な手段の一つです。インフルエンザウイルスに感染すると、肺炎を併発するリスクが高まるため、インフルエンザワクチンの接種が推奨されます。特に、ご高齢の方や、特定の基礎疾患をお持ちの方には、肺炎球菌ワクチンの接種が強く勧められています。ワクチン接種について、もっと詳しく知りたいという方は、当クリニックの医師に遠慮なくご相談ください。
まとめ
肺炎は適切な対応が遅れてしまうと、時には大変な状態になってしまうこともある病気です。早期にその兆候に気づき、適切な治療を始めることが何よりも大切です。「もしかして…?」と感じたら、決して我慢せずに、当クリニックにお越しください。