膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは
膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN)は、膵管内に発生する粘液産生性の良性腫瘍です。膵管内壁から乳頭状に増殖した腫瘍細胞が大量の粘液を産生し、膵管を拡張させることが特徴です。
IPMNは中高年に多く見られる疾患で、特に60歳以降の男性に好発する傾向があります。多くの場合は無症状で、健康診断のCT検査や超音波検査、他の疾患の精査中に偶然発見されることがほとんどです。近年の画像診断技術の進歩により発見頻度が増加しており、適切な診断と管理が重要な疾患として注目されています。
IPMNが産生する粘液により、膵液の流れが悪くなり、急性膵炎を発症することがあります。また、IPMNは基本的には良性腫瘍ですが、時間の経過とともに悪性化する可能性がある病変であり、厳重な経過観察が必要です。
IPMNの分類と特徴
IPMNは発生部位と膵管との関係により、主膵管型、分枝型、混合型の3つに分類されます。それぞれ異なる特徴と悪性化リスクを持つため、分類に応じた適切な管理が必要です。
主膵管型IPMN
主膵管型IPMNは、膵臓を貫く主膵管に発生するタイプです。他に原因のない5mm以上の主膵管拡張と定義され、悪性化リスクが最も高い病型として知られているため、厳重な経過観察が必要です。特に、主膵管径が10mm以上、黄疸、主膵管内の壁在結節、が見られる場合、悪性の可能性が非常に高くなるため、手術での切除が勧められます。
分枝型IPMN
分枝型IPMNは、主膵管から分岐する細い膵管に発生するタイプで、5mm以上の分枝膵管の拡張と定義されます。画像検査では房状や多房性の嚢胞性病変として描出され、「ぶどうの房」様の特徴的な形態を示します。主膵管型に比べて悪性化リスクは低く、多くの場合は経過観察が選択されます。 しかし、大きさが30mm以上のものや急速に増大するもの、内部に結節(壁在結節)を伴うものなどは悪性化のリスクが高いとされ、より慎重な評価と治療方針の検討が必要になります。また、多発性に発生することも多く、膵臓全体の評価が重要です。
混合型IPMN
混合型IPMNは、主膵管と分枝膵管の両方に病変を認めるタイプで、主膵管型と分枝型の中間的な性質を持ちます。悪性化リスクは主膵管型ほど高くありませんが、分枝型よりも注意深い観察が必要とされています。治療方針は病変の範囲や患者さんの全身状態を総合的に判断して決定されます。
IPMNの症状
IPMNは多くの場合無症状で経過しますが、病変が進行したり合併症を起こしたりすると様々な症状が現れることがあります。
初期症状
多くの患者さんが無症状で過ごします。しかし、粘液の貯留により膵液の流れが悪くなることで、上腹部や背中の鈍痛、不快感、吐き気を訴えることがあります。原因不明の体重減少を認める場合もあり、これは悪性化の兆候である可能性もあるため注意が必要です。
進行期の症状
IPMNが進行したり悪性化したりすると、より明確な症状が現れるようになります。持続性の腹痛や背部痛は、腫瘍の増大や周囲組織への浸潤を示唆する重要な症状です。また、急性膵炎を反復する場合もあり、激しい腹痛と嘔吐を認めることもあります。新規発症の糖尿病や既存の糖尿病の急激な悪化も、IPMNの進行を示唆する重要な所見です。これは膵内分泌機能の低下により血糖コントロールが困難になることが原因です。また、膵液の分泌障害により脂肪便(脂っぽく悪臭のある便)が見られることもあります。 黄疸が現れる場合もありますが、これは腫瘍が胆管を圧迫したり、膵頭部に発生した病変が胆管に影響したりすることで起こります。黄疸は悪性化や進行した病変を示唆する重要な症状の一つです。
IPMNの診断

IPMNの診断には複数の画像検査を組み合わせて、病変の性質と範囲を詳しく評価します。
CT検査
造影CT検査は、IPMNの診断において基本となる検査です。膵管の拡張や嚢胞性病変の描出、膵実質の変化、周囲臓器との関係などを詳しく観察できます。また、造影効果により血流の豊富な結節の有無を評価し、悪性化の可能性を推定することも可能です。 多時相撮影により、病変の血流動態を詳しく観察し、良性と悪性の鑑別に役立てます。また、CTでは膵臓全体の評価が可能で、多発病変の有無や膵実質の萎縮、石灰化などの慢性変化も確認できます。
MRI・MRCP検査
MRI検査、特にMRCP(MR胆管膵管撮影)は、膵実質や膵管、嚢胞内の詳細な形態を観察するのに優れた検査法です。膵管と病変との関係を立体的に把握でき、IPMNの分類診断や他の膵嚢胞性病変との鑑別にも有用です。また、撮像条件によって悪性化の評価も行うことができます。放射線を浴びない検査であり、IPMNの定期検査法として重要な役割を果たします。
超音波内視鏡検査
超音波内視鏡(EUS)は、膵臓に最も近い胃・十二指腸から膵臓を観察するため、非常に細かい評価を行うことができます。ただし、内視鏡を使用する検査であるため、多少の苦痛が伴うのがデメリットです。専門性の高い検査であり、経験豊富な施設での実施が望ましい検査です。
IPMNの治療と管理
IPMNの治療方針は、病変の性質、大きさ、患者さんの年齢や全身状態を総合的に考慮して決定されます。
経過観察
分枝型IPMNで悪性化のリスクが低いと判断される場合は、定期的な画像検査による経過観察が基本となります。観察間隔は病状により決定され、通常は6か月から1年ごとにCTやMRI検査を行います。 経過観察中に病変の増大や新たな結節の出現、主膵管の拡張などの変化が見られた場合は、より詳細な検査や治療方針の変更が検討されます。また、症状の出現や糖尿病の新規発症・悪化なども治療方針決定の重要な要因となります。
外科的治療
主膵管型IPMNや悪性化リスクの高い分枝型IPMNでは、外科的切除が検討されます。病変の部位と範囲に応じて、膵臓の切除範囲と最適な術式が選択されます。 腹腔鏡下手術の技術向上により、条件が適合する症例では低侵襲な手術も可能となっています。
内視鏡的治療
一部の症例では、内視鏡的膵管ステント留置術により症状の改善を図ることがあります。膵管の狭窄により膵液の流れが障害されている場合に、ステントを留置して流れを改善し、症状の軽減や膵機能の改善を期待します。 ただし、この治療は対症療法的な意味合いが強く、根治的治療ではありません。患者さんの全身状態や手術リスクを考慮し、症状緩和を目的として選択される場合があります。
当クリニックでのIPMNの診療
当クリニックでは、IPMNの患者さんに対して包括的な診断と管理を提供しています。
IPMNの診療では、悪性化の徴候を早期発見することが重要です。当クリニックでは、定期的な血液検査とCT、MRIなどの画像検査を用いて、IPMNの定期フォローを行い、悪性化の徴候を評価します。最新のCT装置を用いて、IPMNの詳細な評価を行います。造影検査により病変の性状を詳しく観察し、悪性化リスクの評価を行います。必要に応じて、提携する専門医療機関でのMRCPや超音波内視鏡検査の手配も迅速に行います。 血液検査では腫瘍マーカーや膵酵素、血糖値などを測定し、病変の活動性や膵機能の評価を行います。これらの検査結果を総合的に判断し、患者さんに最適な治療方針を提案いたします。
患者さん一人ひとりの病状とリスクに応じて、最適な経過観察スケジュールを提案いたします。患者さんやご家族への詳しい説明も重視し、病気に対する理解を深めていただくことで、安心して経過観察を継続していただけるよう配慮しています。IPMNについてご心配な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。