腸結核とは
腸結核症とは、結核菌が腸管に感染して起こる感染症のことです。主に肺結核に続発して発症することが多いものの、初めから腸に感染する原発性であることもあります。
日本では結核全体の発生率は減少傾向にありますが、高齢者や免疫不全の方では今なお注意すべき感染症です。また、近年では海外からの移住者の増加に伴い、結核が多い国・地域出身の方での発症も見られます。
腸結核は腹部臓器の結核感染症のなかでも最も頻度が高い感染部位です。主に回盲部(小腸と大腸の境目付近)によく発症しますが、肝臓や小腸、大腸の他の部位にも発生することがあります。
腸結核の感染経路
感染経路
- 続発性感染:肺結核の患者が結核菌を含む痰を飲み込むことで、消化管に結核菌が到達する
- 血行性感染:他臓器の結核病巣から血液を介して腸管へ結核菌が運ばれる
- 隣接臓器からの直接波及:腹膜結核などから腸管へ感染が広がる
リスク要因
- 活動性肺結核の存在
- 免疫不全状態(HIV感染症、長期ステロイド療法、免疫抑制剤使用など)
- 高齢
- 結核が多い国・地域での居住歴や渡航歴
- 栄養不良
- アルコール多飲
腸結核症の症状
腸結核症の症状はさまざまで、腸結核に特有な症状はありません。
消化器症状
- 腹痛:特に右下腹部(回盲部)の痛みが多い
- 下痢:慢性的な下痢が続くことがある
- 便秘:腸管狭窄を起こすと便秘になることも
- 下血・血便:粘膜の潰瘍からの出血による
- 腹部膨満感
全身症状
- 発熱:微熱から高熱まで様々
- 体重減少:食欲不振や栄養吸収障害による
- 倦怠感:全身の炎症反応による
- 寝汗:特に夜間の発汗が特徴的
- 貧血:慢性炎症や出血による
合併症による症状
- 腹膜炎症状:腸管穿孔による激しい腹痛
- 瘻孔形成:腸と腸、腸と皮膚などの間に異常な連絡路ができる
これらの症状は徐々に進行することが多く、数週間から数カ月にわたって症状が続くこともあります。
腸結核症の診断

腸結核症の診断は、問診や検査所見を総合的に判断して行われます。
問診では、症状の経過、結核患者との接触歴、結核が多い国・地域での居住歴、過去の病歴などを詳しく聴取します。
結核菌の感染診断には、胸部X線検査、ツベルクリン反応、血液検査(炎症マーカー、インターフェロンγ遊離試験)などがあります。また、痰培養、胃液培養によって結核菌の存在を調べることもあります。
腸結核を診断するためには、大腸内視鏡検査が必要です。内視鏡検査では、特徴的な輪状潰瘍、瘢痕性狭窄などの所見が認められます。このような病変から組織採取を行い、腸結核の診断を行います。
その他、腹部CT検査、小腸造影検査などを行うことがあります。
腸結核症はクローン病など他の炎症性腸疾患との鑑別が難しいことがあります。正確な診断のためには、複数の検査結果を総合的に判断することが重要です。
腸結核症の治療

腸結核症の治療は、主に抗結核薬による薬物療法が基本です。治療期間は通常6〜9ヶ月と長期にわたります。
薬物療法
標準的な抗結核薬治療は、イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミドの4剤併用療法です。
治療効果や副作用の出現に応じて、薬剤の種類や投与期間が調整されることがあります。
薬物療法の注意点
- 複数の薬を同時に長期間服用する必要がある
- 決められた期間、確実に服薬を続けることが重要
- 肝機能障害などの副作用のモニタリングが必要
- 薬剤耐性結核菌の場合は治療が難しくなることがある
外科的治療
以下のような場合には外科的治療(手術)が検討されます。
- 腸閉塞が進行する場合
- 腸管穿孔や大量出血などの合併症がある場合
- 悪性腫瘍との鑑別が困難な場合
当クリニックでの腸結核の診療
以下のような症状がある場合は、消化器内科の受診をご検討ください:
- 2週間以上続く原因不明の腹痛や下痢
- 血便や黒色便
- 原因不明の発熱や体重減少
- 肺結核の既往や治療歴がある方で消化器症状がある場合
- 結核が多い国・地域での滞在歴があり、消化器症状がある場合
特に複数の症状が組み合わさっている場合や、通常の治療で改善しない場合は、早めに専門医に相談しましょう。腸結核に特有な症状はありませんが、さまざま消化器症状を引き起こします。当クリニックでは、患者さんの状態に応じた最適な医療を提供いたします。お腹の不調について心配な点がございましたら、遠慮なくご相談ください。