食道アカラシア

食道アカラシアについて

正常な食道では、食べ物を飲み込むと食道の筋肉が波打つように動いて(蠕動運動)、食べ物を胃へ送り込みます。食道と胃の境目にある下部食道括約筋は、普段は閉じていて胃酸の逆流を防ぎ、食べ物が通過する時だけ筋肉が弛緩し通過できるように調節されています。アカラシアは、食道の蠕動運動をコントロールしている神経に異常が起こることにより、下部食道括約筋が開かなくなったり、食道の蠕動運動が弱くなったり消失したりする病気です。

この病気は比較的まれで、10万人に1人程度の頻度で起こります。年齢は幅広く、20代から80代まで見られますが、40~60代に多い傾向があります。男女差はほとんどありません。

食道アカラシアの症状

嚥下困難(飲み込みにくさ)

最も多く見られる症状が嚥下困難です。初期には固形物(ご飯、パンなど)が飲み込みにくくなり、病気が進行すると液体(水、お茶など)も飲み込みにくくなります。患者さんは「食べ物がのどにつかえる」「胸の奥で止まる感じがする」と表現されることが多いです。

食事に時間がかかるようになったり、水分を多く取らないと食べ物が通らなくなったりします。症状は日によって変動することもあり、調子の良い日と悪い日があることも特徴の一つです。

逆流・嘔吐

食道にたまった食べ物や唾液が口の中に戻ってくることがあります。これは胃酸を含まない逆流で、酸っぱい味はしません。特に横になった時や前かがみになった時に起こりやすく、夜間に起こると咳き込んだり、誤嚥性肺炎を起こしたりするリスクがあります。

胸痛

胸の中央部に痛みを感じることがあります。この痛みは、食道の筋肉が食べ物を押し流そうとして強く収縮することで起こります。痛みの程度は様々で、軽い違和感から激しい痛みまであります。

胸痛は食事中や食後に起こることが多いです。心臓の病気と間違われることもあるため、適切な診断が重要になります。

体重減少

飲み込みにくさのために食事量が減り、体重が減少することがあります。進行した例では、栄養不良や脱水症状を引き起こすこともあります。

患者さんによっては、食べやすいものばかり選んで食べるようになり、栄養バランスが偏ることもあります。また、食事自体が苦痛になり、食事を避けるようになることもあります。

食道アカラシアの診断

アカラシアの診断には、症状の詳しい聞き取りと専門的な検査が必要です。

バリウム検査(上部消化管造影検査)では、バリウムを飲んでレントゲン写真を撮ります。アカラシアでは、食道が拡張し、食道と胃の境目が細くなった特徴的な「鳥のくちばし様」の所見が見られます。また、バリウムが食道にたまって胃に流れ込まない様子も確認できます。

内視鏡検査(胃カメラ)では、食道の内部を直接観察します。食道内に食べ物の残りがたまっていたり、食道の壁が拡張していたりする様子を確認できます。また、食道がんなど他の病気との区別をつけるためにも重要な検査です。

食道内圧検査は、アカラシアの確定診断に最も重要な検査です。鼻から細い管を食道に入れて、食道の筋肉の動きや圧力を測定します。アカラシアでは、下部食道括約筋の圧力が高く、飲み込んでも十分に下がらないことが確認されます。

食道アカラシアの治療

アカラシアの治療は、下部食道括約筋の緊張を和らげて食べ物が胃に流れやすくすることが目的です。現在のところ、病気の根本的な原因を治す治療法はありませんが、適切な治療により症状を大幅に改善することができます。

薬物治療

軽症の場合や手術ができない方には、薬による治療を行います。カルシウム拮抗薬や硝酸薬などが使われ、下部食道括約筋を緩める効果があります。ただし、効果は限定的で、長期的な症状改善は期待できないことが多いです。

最近では、ボツリヌス毒素を下部食道括約筋に注射する治療も行われています。

内視鏡的治療

内視鏡的バルーン拡張術は、下部食道括約筋の狭い部分を風船で押し広げる治療です。局所麻酔で行うことができ、比較的安全性が高い治療法です。ただし、効果は永続的ではなく、数年後に再び治療が必要になることがあります。

POEM(内視鏡的筋層切開術)は、比較的新しい治療法で、内視鏡を使って下部食道括約筋を切開します。手術に比べて体への負担が少なく、良好な治療成績が報告されています。

外科的治療

腹腔鏡下筋層切開術(ヘラー筋切開術)は、お腹に小さな穴を数カ所開けて、下部食道括約筋を切開する手術です。現在でもアカラシア治療の標準的な方法の一つとされており、長期的な効果が期待できます。

手術の際には、胃酸の逆流を防ぐために噴門形成術も同時に行われることが多いです。手術は全身麻酔で行われ、入院期間は通常1週間程度です。

治療後の経過と注意点

どの治療を行っても、治療後は胃酸の逆流が起こりやすくなります。これは、下部食道括約筋を緩めることで、胃酸が食道に上がってきやすくなるためです。そのため、治療後は逆流性食道炎の予防と治療が重要になります。

定期的な経過観察も重要で、症状の再発がないか、新たな問題が起こっていないかをチェックします。また、アカラシアの患者さんは食道がんのリスクがわずかに高いとされているため、定期的な内視鏡検査も推奨されています。

当クリニックでの食道アカラシアの診療

当クリニックでは、アカラシアの早期発見と適切な専門医療機関への紹介を行っています。飲み込みにくさや胸のつかえ感でお困りの患者さんに対して、詳しい問診と身体診察を行い、アカラシアの可能性を評価します。

症状からアカラシアが疑われる場合は、専門的な検査が受けられる消化器内科や消化器外科への紹介を迅速に行います。また、検査結果の説明や治療方針の相談にも応じ、患者さんが安心して治療を受けられるようサポートします。症状でご心配な点がございましたら、遠慮なくお気軽にご相談ください。

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