慢性胃炎について
慢性胃炎は、胃の粘膜に慢性的な炎症が起こっている状態です。急性胃炎とは異なり、症状がはっきりしないことが多く、長い時間をかけてじわじわと進行します。炎症が続くと胃の粘膜が薄くなって萎縮し、萎縮性胃炎と呼ばれる状態になります。
正常な胃の粘膜は、胃酸や消化酵素を分泌する働きがありますが、慢性胃炎が進行すると、これらの機能が低下してきます。また、胃の粘膜には胃酸から胃壁を守るバリア機能もありますが、これも弱くなってしまいます。
慢性胃炎の最も大きな問題は、胃がんの発生リスクが高くなることです。特に萎縮性胃炎が進行した状態では、胃がんのリスクが健康な人の数倍から数十倍に高まるとされています。そのため、定期的な検査による早期発見が非常に重要になります。
慢性胃炎の原因
慢性胃炎の主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌という細菌の感染です。この菌は胃の粘膜に住み着いて、長期間にわたって炎症を引き起こします。
ヘリコバクター・ピロリ菌
ピロリ菌は、胃の強い酸性環境でも生きていける特殊な細菌です。この菌が胃の粘膜に感染すると、胃の粘膜が傷つけられます。
感染は主に幼少期に起こり、一度感染すると治療しない限り生涯にわたって胃に住み続けます。ピロリ菌感染の経路は完全には分かっていませんが、口から口への感染(家族間での食べ物の口移しなど)や、汚染された水や食べ物からの感染が考えられています。現在では上下水道の整備により新たな感染は減っていますが、中高年の感染率は依然として高いままです。
その他の原因
自己免疫性胃炎という、体の免疫システムが間違って胃の細胞を攻撃してしまう病気もあります。この場合は胃酸の分泌が極端に少なくなり、ビタミンB12の吸収障害による貧血が起こることもあります。
慢性胃炎の症状
症状がある場合、最も多いのは胃もたれや食後の腹部膨満感です。特に脂っこい食事の後に胃が重く感じたり、普段より少ない量でお腹がいっぱいになったりします。食欲不振も比較的よく見られる症状で、「なんとなく食欲がない」「食事がおいしくない」と感じることがあります。
軽い上腹部痛や不快感を感じることもあります。この痛みは鈍痛であることが多く、「キリキリ」した激しい痛みというよりは、「重苦しい」「圧迫されるような」感覚として現れます。
げっぷが出やすくなったり、胸やけを感じたりすることもあります。これは胃の機能が低下して、食べ物の消化や胃酸の分泌のバランスが崩れることが関係しています。
慢性胃炎の診断
慢性胃炎の診断には、内視鏡検査(胃カメラ)が最も重要です。
内視鏡検査では、胃の粘膜の状態を直接観察できます。慢性胃炎では、胃の粘膜が赤くなったり、薄くなったり、血管が透けて見えたりします。
ヘリコバクター・ピロリ菌の検査も重要です。血液検査、便検査、尿素呼気試験などの方法があり、どれも簡単に受けることができます。ピロリ菌が見つかった場合は、除菌治療を行うことで胃炎の進行を止めたり改善したりすることができます。
慢性胃炎の治療
慢性胃炎の治療は、原因に応じて行います。最も重要なのはヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療で、これにより胃炎の進行を止めることができます。症状がある場合は、それに対する治療も行います。
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療については、「ピロリ菌」の項目をご覧ください。胃もたれや食欲不振などの症状に対しては、胃酸分泌抑制薬や胃の動きを良くする薬を使用します。
胃がんとの関係
慢性胃炎、特に萎縮性胃炎は胃がんの発生母地となることが知られています。ピロリ菌感染による慢性胃炎から萎縮性胃炎、腸上皮化生、異形成を経て胃がんに至る道筋が明らかになっています。
胃がんのリスクは、萎縮性胃炎の程度が強いほど高くなりますが、ピロリ菌の除菌治療により、新たな胃がんの発生リスクを減らすことができます。また、除菌後であっても定期的な内視鏡検査により、早期の胃がんを発見できれば、内視鏡的な治療で完治が可能です。
定期検査の重要性
慢性胃炎、特に萎縮性胃炎と診断された方は、定期的な内視鏡検査が非常に重要です。検査の間隔は萎縮の程度やリスクレベルによって決められますが、一般的には1~2年に1回の検査が推奨されます。
内視鏡検査では、胃がんの早期発見だけでなく、胃炎の進行度合いや治療効果の判定も行います。小さな変化も見逃さないよう、経験豊富な医師による丁寧な観察が重要です。
当クリニックでの慢性胃炎の診療

当クリニックでは、慢性胃炎の診断から治療、長期管理まで、包括的な医療サービスを提供しています。健康診断で胃炎を指摘された方から、胃の症状でお困りの方まで、幅広く対応いたします。
初診時には、詳しい症状の聞き取りと身体診察を行い、必要に応じて血液検査やピロリ菌検査を実施します。内視鏡検査が必要な方には、信頼できる専門医療機関をご紹介し、検査結果の説明や今後の治療方針についても丁寧にご相談いたします。
除菌後の経過観察も重要で、定期的な検査のスケジュール管理や、症状の変化に応じた治療調整を行います。また、胃がん予防のための生活指導や、定期検査の重要性についても分かりやすくご説明いたします。